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プロ野球

俊足に陰りが見えてきた時に何で勝負していくか――西武・金子侑司の現役引退で改めて考える「スピードスターの宿命」<SLUGGER>

氏原英明

2024.09.19

「自分が思った以上に盗塁ができました。大学生の時とかはあまり走っていなかったと思うんで、この世界で生き抜いていくために、いろんな方から教えてもらいましたし、その中で思ってた以上に走れたと思います。一方、もうちょっとできたかなという部分に関してはもっと打てたかなと思います。でも、自分の技術が思ったより上がらなかった。自分の努力が足りなかったのもあるかもしれない」。

 立命館宇治高時代は、スラッガーとして京都府内では評判の選手だった。立命館大に進んでからも好打に足を絡めるスタイルが持ち味の選手だった。足は飛躍的に伸びた分、タイトルを取れるほどになったが、打撃面での苦労が今季限りでの引退につながたったとも言えるだろう。

 もっとも、金子侑がチームに残した功績は大きい。この日の引退セレモニーでも、登板予定のない投手陣や二軍選手の多くがベルーナドームに駆けつけ、チームを12年間に渡って盛り上げた金子侑の花道を見送っていた。それほどの存在だった。
 8回裏の攻撃では、打線がつながって2死満塁の好機で金子侑を迎えるという奇跡的な場面が生まれた。結果は遊撃ライナーに倒れたものの、「金子侑へ打席を回そう!」という西武ナインの思いが結実したシーンだった。

 近年は思うような結果が出ず、出場機会が減少。客席から心無いブーイングを浴びることもあったが、それでも下を向くことなく、よくやり切ったと思う。スピードで勝負できなくなった中で、開幕から打撃で見せようとアピールしてきたのは間違いではなかった。

「開幕スタメンに入って、9月には現役引退発表ですからね。本当にそれだけでも激動の1年だったなと思います。開幕からチャンスをもらって、試合に出させてもらって、ちょっとやれたり、駄目だったり、いろいろありました。欲を言えばもう1回、一軍に上がりたかったんですけど、すっきりした部分はあると言えばあるので、今年1年濃かったなと思います」

「まだまだやれる」という惜しむ声がある中、34歳にしてユニフォームを脱ぐ。スピードを武器にした選手がプロの世界で長く生きていく厳しさを感じずにはいられない。

取材・文●氏原英明(ベースボールジャーナリスト)

【著者プロフィール】
うじはら・ひであき/1977年生まれ。日本のプロ・アマを取材するベースボールジャーナリスト。『スラッガー』をはじめ、数々のウェブ媒体などでも活躍を続ける。近著に『甲子園は通過点です』(新潮社)、『baseballアスリートたちの限界突破』(青志社)がある。ライターの傍ら、音声アプリ「Voicy」のパーソナリティーを務め、YouTubeチャンネルも開設している。

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