●マーケットの評価
とはいえ、マーケットの状況は複雑で、数多くの球団が鈴木を評価しているというだけで契約額が決まるわけではない。
「他のチームが考える市場価格を大きく上回るオファーを出すチームが1つや2つは必ず出てくるものだ」とあるスカウトは言う。
別のスカウトの意見はこうだ。「彼はあまり金にうるさいようには見えない。もちろん、代理人がどう考えているかは分からないが。それでも私は、鈴木が金額だけでチームを決めるとは思わない。どのチームが自分に一番合っているかを重視するんじゃないかな。おそらく暖かい気候の土地のチームで、なおかつ自分が一番活躍できそうなところを選ぶだろう」
それが本当なら、あるスカウトが予想するように4年4000万ドル規模の契約を提示するチームが出てきても、金額以外の要素が決め手になるかもしれない、ということだ。
21年、鈴木は自ら市場価値を下げるようなことはなかった。打率.317をマークして首位打者に輝き、OPS1.072もリーグ1位。38本塁打は自己最多で、打者有利の球場を本拠とする村上宗隆(ヤクルト)に1本差の3位だった。
やや成績がダウンした20年と今季を比べると、表面上はあまり大きな違いがないように見える。しかし、鈴木は年月を重ねるにしたがって打席での辛抱強さを増し、メジャーリーグのトレンドと同じようにボールを強く叩いて、フライを量産させる打撃に磨きをかけてきた。
あるスカウトによれば、この2つの要素が今シーズンとこれまでの大きな違いだという。
「今年は、打球初速と打球角度がどちらも優秀だった。キャリアベストと言ってもいいだろう」とそのスカウトは言う。「ただ、打席での辛抱強さに関しては特に目立った成長はなかった。その意味ではランダムな要素があるのかもしれない」
相手投手たちと鈴木がイタチごっこを繰り広げていた兆候もある。あるスカウトによれば、鈴木は「初球は必ずと言っていいほど手を出さない」。だが、今年はそれが必ずしも当てはまらない場面も見受けられた。振ってこないだろうと相手を安心させたところで、初球を粉砕するのだ。
投手たちは鈴木に対してこれまで以上に高めやストライクゾーンに投げなくなり、ボールを低めに集めるようになった。だが、相手が失投して甘く入ると、それを逃さずスタンドまで運んでいた。真ん中のコースのホームランが今年は44%も増えたというデータもある。
鈴木は27歳で22年シーズンを迎える。同じ年の大谷翔平(エンジェルス)のように、鈴木は最高の選手になりたいという強い思いを持っている。過去には、「世界最高のバッターになりたい」と話したこともある。
「成績予想みたいなことはしたくないが」とあるスカウトは言う。「鈴木がメジャー1年目で20本塁打に届かなかったら驚きだ。打率もそれなりに残すだろう。シフトも敷かれるだろうし、アメリカの審判にも適応しなければいけないから、日本時代のような打率を残すのは最初は難しいだろうが、そのうち届くだろう」
日本よりさまざまなタイプがいるアメリカの投手との対戦は、より困難なチャレンジになるだろう。慣れ親しんだ日本での流儀を捨て、アメリカに適応するために最初はいくらか時間がかかるかもしれない。だが、あるスカウトいわく、肉体的には何の障壁もないという。
「日本時代に近い成績を残すことを妨げる要素は何一つない」。別のスカウトも同意する。「あまり気にしていないスカウトもいるが、コーチの指導に耳を傾ける能力も重要なんだ。鈴木はその点が非常に優れている。誰にでも肉体的な限界はある。だが、彼はその限界ギリギリまで能力を発揮できると思う。自分の前に立ちはだかるすべての障壁に適応する能力を持っているからね」
文●ジム・アレン
※スラッガー2022年1月号より転載
【著者プロフィール】
1960年生まれ。カリフォルニア大サンタクルーズ校で日本史を専攻。卒業後に英語教師として来日し、93年から取材活動を開始。現在は共同通信の記者として活躍中。ベイエリアで育ち、子供の頃は熱心なサンフランシスコ・ジャイアンツのファンだった。
とはいえ、マーケットの状況は複雑で、数多くの球団が鈴木を評価しているというだけで契約額が決まるわけではない。
「他のチームが考える市場価格を大きく上回るオファーを出すチームが1つや2つは必ず出てくるものだ」とあるスカウトは言う。
別のスカウトの意見はこうだ。「彼はあまり金にうるさいようには見えない。もちろん、代理人がどう考えているかは分からないが。それでも私は、鈴木が金額だけでチームを決めるとは思わない。どのチームが自分に一番合っているかを重視するんじゃないかな。おそらく暖かい気候の土地のチームで、なおかつ自分が一番活躍できそうなところを選ぶだろう」
それが本当なら、あるスカウトが予想するように4年4000万ドル規模の契約を提示するチームが出てきても、金額以外の要素が決め手になるかもしれない、ということだ。
21年、鈴木は自ら市場価値を下げるようなことはなかった。打率.317をマークして首位打者に輝き、OPS1.072もリーグ1位。38本塁打は自己最多で、打者有利の球場を本拠とする村上宗隆(ヤクルト)に1本差の3位だった。
やや成績がダウンした20年と今季を比べると、表面上はあまり大きな違いがないように見える。しかし、鈴木は年月を重ねるにしたがって打席での辛抱強さを増し、メジャーリーグのトレンドと同じようにボールを強く叩いて、フライを量産させる打撃に磨きをかけてきた。
あるスカウトによれば、この2つの要素が今シーズンとこれまでの大きな違いだという。
「今年は、打球初速と打球角度がどちらも優秀だった。キャリアベストと言ってもいいだろう」とそのスカウトは言う。「ただ、打席での辛抱強さに関しては特に目立った成長はなかった。その意味ではランダムな要素があるのかもしれない」
相手投手たちと鈴木がイタチごっこを繰り広げていた兆候もある。あるスカウトによれば、鈴木は「初球は必ずと言っていいほど手を出さない」。だが、今年はそれが必ずしも当てはまらない場面も見受けられた。振ってこないだろうと相手を安心させたところで、初球を粉砕するのだ。
投手たちは鈴木に対してこれまで以上に高めやストライクゾーンに投げなくなり、ボールを低めに集めるようになった。だが、相手が失投して甘く入ると、それを逃さずスタンドまで運んでいた。真ん中のコースのホームランが今年は44%も増えたというデータもある。
鈴木は27歳で22年シーズンを迎える。同じ年の大谷翔平(エンジェルス)のように、鈴木は最高の選手になりたいという強い思いを持っている。過去には、「世界最高のバッターになりたい」と話したこともある。
「成績予想みたいなことはしたくないが」とあるスカウトは言う。「鈴木がメジャー1年目で20本塁打に届かなかったら驚きだ。打率もそれなりに残すだろう。シフトも敷かれるだろうし、アメリカの審判にも適応しなければいけないから、日本時代のような打率を残すのは最初は難しいだろうが、そのうち届くだろう」
日本よりさまざまなタイプがいるアメリカの投手との対戦は、より困難なチャレンジになるだろう。慣れ親しんだ日本での流儀を捨て、アメリカに適応するために最初はいくらか時間がかかるかもしれない。だが、あるスカウトいわく、肉体的には何の障壁もないという。
「日本時代に近い成績を残すことを妨げる要素は何一つない」。別のスカウトも同意する。「あまり気にしていないスカウトもいるが、コーチの指導に耳を傾ける能力も重要なんだ。鈴木はその点が非常に優れている。誰にでも肉体的な限界はある。だが、彼はその限界ギリギリまで能力を発揮できると思う。自分の前に立ちはだかるすべての障壁に適応する能力を持っているからね」
文●ジム・アレン
※スラッガー2022年1月号より転載
【著者プロフィール】
1960年生まれ。カリフォルニア大サンタクルーズ校で日本史を専攻。卒業後に英語教師として来日し、93年から取材活動を開始。現在は共同通信の記者として活躍中。ベイエリアで育ち、子供の頃は熱心なサンフランシスコ・ジャイアンツのファンだった。