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NBA

すべてに背を向けた孤高のスーパースター、カリーム・アブドゥル・ジャバ―が抱えていた葛藤【NBAレジェンド列伝・前編】

出野哲也

2020.08.18

ディフェンス不可能なスカイフックを武器に、ジャバーは数々の栄冠を手にした。(C)Getty Images

ディフェンス不可能なスカイフックを武器に、ジャバーは数々の栄冠を手にした。(C)Getty Images

すべてに背を向けた孤高のスーパースター

 カリーム・アブドゥル・ジャバーと改名したのは、その年の秋だった。ムスリムとなったのは3年も前だったし、ボクシング王者のカシアス・クレイが、イスラム教に改宗してモハメド・アリに改名した前例もあった。それでもクリスチャンが大半を占めるアメリカ社会においては反発や困惑は避けがたく、そうした反応がますますジャバーを頑なにした。チームメイトからは孤立し、メディアには背を向け、ファンからも遠ざかっていく。のちにロサンゼルス・レイカーズでチームメイトになるマジック・ジョンソンも、少年の頃ジャバーにサインを求めて断られたことがあるそうだ。

 どんな批判を浴びても、ジャバーは「自分らしくあるためには、何物にも煩わされたくない。知性を持った人間なら誰でもそうだろう」と態度を変えなかった。この頃の彼は、まさしく孤高のスーパースターだった。
 
 75年には自らの希望で、第二の故郷ロサンゼルスのレイカーズへ移籍。最初の8年間で5度もMVPに選ばれ、事実上ライバルが存在しなかったこともあって、彼の関心はバスケットボール以外に向かう。ブルース・リーに弟子入りしてカンフーの特訓を開始し、師匠の遺作『死亡遊戯』を皮切りに多くの映画に出演。80年の作品『エアプレイン』ではコミカルな演技も披露した。

 ジャズ・ミュージシャンでもあった父の影響でジャズにも傾倒し、レコード収集に没頭。セロニアス・モンクやマイルス・デイビスら一流ジャズマンとも交流した。「ブルースの教えはジョン・ウッデン(UCLA時代のコーチ)にも通じる。音楽を聴いてリズムやタイミングの感覚を養うのもバスケットボールに役立つ」とジャバーは語ったが、彼の心がバスケットボールのコートにないことをファンは感じ取っていた。(後編に続く)

文●出野哲也
※『ダンクシュート』2010年2月号掲載原稿に加筆・修正

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