その後も1993－94シーズン終盤にはヘッドコーチとして、1995－96シーズンには選手としてレイカーズに復帰したが、いずれも短期間のカムバックに終わり、その後はビジネス活動に専念。2017年にはレイカーズへ球団社長として戻ってきたが、2019年には退任している。

　彼の経営する映画館『マジック・ジョンソン・シアター』やカフェのチェーンは、大企業が敬遠しがちな治安の悪い区域や貧困層の住む地域に進出して成功を収め「視野の広さは現役時代のコートビジョンと変わらない」と経済誌から称賛されるほどだ。

　衝撃の発表から16年が過ぎた今も、マジックは精力的な日々を過ごしている。発病の恐怖は常に潜んでいるものの、幸いにして健康に影響を及ぼしてはいない。
  　マジック自身、初めはHIVウイルスへの感染とエイズとの違いを認識しておらず、すぐにでも死んでしまうのではと怖れた。世間は言わずもがなである。しかし、マジックが今でも健康状態を保っていることで人々の認識も変わった。HIVウイルスには誰もが感染する危険があること、しかしそれはすぐに死を意味するものではないことは、マジック自身が実証している。

　現役時代に偉大な業績を残しても、引退後も社会への影響力を保てる選手はほとんどいない。マジック自身も自らの意志でそうなったわけではないが、苛酷な運命を受け入れて前向きに生きる姿勢は、多くの人たちを勇気づけている。

　通算１万141本のアシストを繰り出したマジックは、今もなお、自らの生き様を通じて、世界中に精神的な“アシストパス”を送り続けている。

文●出野哲也
※『ダンクシュート』2008年１月号原稿に加筆・修正

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