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バスケW杯

集合住宅の中庭に巨大アート、子どもたちは裸足でプレー……W杯開催国フィリピンを象徴する『世界最高のバスケットボールコート』<DUNKSHOOT>

小川由紀子

2023.09.11

W杯の公式キャラクターが描かれたコートで、サンダル姿の子どもたちがバスケットボールに汗を流す。(C)Mansoor Ahmed/Ahmedphotos

W杯の公式キャラクターが描かれたコートで、サンダル姿の子どもたちがバスケットボールに汗を流す。(C)Mansoor Ahmed/Ahmedphotos

 しかしこのコートは、ただ単に素晴らしいアート作品があしらわれた場所というだけではない。ここに住む子どもや大人たちは、毎日このコートでバスケットボールに明け暮れている。

 立っているだけで汗が滴り落ちてくる炎天下で、子どもたちは休みもせず、ボールを追いかける。バッシュなどは持っていないため、皆サンダルや裸足でプレーしている。

 1人の少年は、足の裏の皮が剥けてしまったといってコートの脇で座り込んでいた。プロ選手になることを夢見ている彼の憧れは、カイリー・アービングだそうだ。

 アレックスという名のこの少年は、背格好から10歳くらいかと思ったら、14歳だった。栄養状態がよくないのか、みんな実際の年齢より2、3歳若く見える。しかし、そんな華奢な身体のどこから?とびっくりするくらい、例えば8歳くらいの子でもフリースローラインから軽々ボールを届かせるだけのパワーを持っている。

 以前、マニラ郊外のスラムに住む少年たちにサッカーを指導していたフィジカルトレーナーに聞いた話では、こうした地区で育った子どもたちは、小さい頃から舗装されていない曲がりくねった道路を走り回っているおかげで、敏捷性やアジリティ、体幹がズバ抜けて良いのだそうだ。
 
 ここでは毎晩のように住人チーム対抗のピックアップゲームが行なわれている。人々はどちらが勝つか予想して、小銭を賭ける。賭けに勝ったら、手にしたお金で家族のための買い出しをするのだ。ここの人たちは文字通り、バスケットボールに生きている。

 約3000人が住んでいる7階建てのアパートには、水道は無く、約21平米ほどの部屋に3、4人が暮らしている。現在40歳のガレイテス氏のように、住民のほとんどがここで生まれ育った。全員が顔見知りの、いわば巨大な家族だ。

 しかしこの場所が、巨大地震が発生する可能性のある地盤の上に建っていることが発覚すると、政府は安全上の理由から、この集合住宅、そしてこのコートも取り壊すことを決めた。ただしそれが「いつ」なのかはまだ決定していない。

 このコートは現在、住人のための資金源となるべく、広告用のスペースとして販売されている。ガレイテス氏が次に取り組むのは、スニーカーメーカー『Skechers』から依頼された広告作品だそうだ。

 耐震住宅に建て替えるといった解決策が浮上して、この集合住宅もコートも救われることになるのか。住人の多くは、「ここで死んでもいいから立ち退きたくはない」と主張しているという。

 フィリピンのバスケットボールカルチャーを生き生きと伝えてくれるこの場所が、救われることを願って。

文●小川由紀子
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