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海外サッカー

【現地発コラム】前例がないほど非イタリア的な「新生ミラン」、アメリカ的な機能分散型の組織形態、新監督アモリム招聘の舞台裏――クラブ要職を刷新した名門の行く末は

片野道郎

2026.07.07

新監督に就任したアモリム。スポルティングで結果を出し、マンチェスター・Uを経てミランに招かれた。(C)Getty Images

新監督に就任したアモリム。スポルティングで結果を出し、マンチェスター・Uを経てミランに招かれた。(C)Getty Images

 ワールドカップが佳境に入るのを横目で見ながら、ヨーロッパのクラブは2026-27シーズンに向けた体制作りとチーム編成を進めている。イタリア・セリエAにおいて、その観点から見て最も大きな変革があったのは、経営トップのCEOから監督までクラブの要職を総入れ替えし、実質ゼロから再スタートしようとしているミラノの名門、ACミランだろう。

 昨シーズンの結末は苦いものだった。新たに招聘したマッシミリアーノ・アッレーグリ監督の下で、シーズン後半の3月まで優勝争いに踏み止まりながら、ラスト8試合でわずか2勝しかできず、2位から5位に転落してシーズン終了。スクデットどころか、クラブにとって最低ノルマだったはずのチャンピオンズリーグ出場権にすら、8位に終わった前年(24-25)に続いて手が届かずに終わった。

 残り2試合でCL出場権が微妙になるという状況を受けて、『ガゼッタ・デッロ・スポルト』のインタビューに応じたオーナーのアメリカ人投資家ジェリー・カルディナーレは「優勝できないことは落胆でしかないが、CLに出られないのは破綻だ」と語っていた。

 アッレーグリという結果至上主義の指揮官を迎え、ある意味ではなりふり構わず目先の結果に全振りしたにもかかわらず、最低ノルマすら達成できなかったという結果が、ミランの経営にはもちろん、カルディナーレのイメージとプライドにも大きなダメージを与えたことは明らかだ。

 これを受けたカルディナーレは、シーズンが終了して間もない5月25日、クラブの実質的な経営トップだったジョルジョ・フルラーニCEOを筆頭に、テクニカルダイレクターのジョフロワ・モンカダ、1年前にスポーツダイレクターに就任したイグリ・ターレ、そしてアッレーグリ監督と、クラブ運営にかかわる要職に就く幹部を丸ごと解任するという、きわめて強い決断を下す。

 フルラーニやモンカダ(とりわけ前者)は、サポーターの間では近年の不成績の「元凶」とみなされ抗議の対象となっていたため、解任そのものは驚きではなかった。しかし問題は、そのフルラーニから現場のトップであるアッレーグリまでを文字通り「一掃」した結果、クラブのマネジメントが一時的にとはいえ完全に空洞化したことだった。

 それからの数週間、他のライバルクラブがすでに新シーズンに向けたチーム強化に動いている中、ミランはクラブとしてほとんど機能停止した状態で、オーナーが新たな経営陣、スポーツ部門の統括責任者、そして監督を選ぶのを待つ以外になかった。

 スポーツビジネスに特化したファンド「レッドバード・キャピタル」を率いて大きな成功を収めてきたカルディナーレだが、本質的には銀行家、投資家であり、プロサッカークラブの経営、チームの編成強化、監督の仕事などについて深い知見を持つわけではない。

 レッドバードにはシニア・アドバイザーという肩書きでズラタン・イブラヒモビッチが迎えられているが、そのイブラはW杯期間中を通じてアメリカTV局のコメンテーターとして大活躍中であり、ミランの再構築に中心的に関わっているようには見えなかった。

 
 カルディナーレが片腕として頼りにし、結果的にCEOの座に就けてミランの経営を委ねることになったキーパーソンは、元プロテニスプレーヤーのマッシモ・カルベッリ。ATPランキング最高255位というキャリアを持ち、引退後はナイキ、ウィルソン、アメアスポーツというスポーツ用品メーカーの要職を経て、2020年から2025年まで男子プロテニス協会のCEOを務めるなど、スポーツマネジメントの分野でキャリアを築いたイタリア人だ。その職を辞した昨年にレッドバード入りして、すぐにカルディナーレに重用されるようになった。

 そのカルベッリとカルディナーレが進めたミランの新体制を担う人選は、しかし順調には進まなかった。

 スポーツ部門全体を統括するテクニカルダイレクター(TD)、現場でトップチームを率いる監督という2つのポストについて、それぞれ複数の候補をリストアップ。「面接」するというプロセスの中で、当初TDの有力候補として浮かび上がったのは、現オーストリア代表監督のラルフ・ラングニックだった。

 ゲーゲンプレッシングを「発明」して、ユルゲン・クロップからオリバー・グラスナー、ロジャー・シュミットまで数多くの監督に戦術的影響を与え、2000年代末からテクニカルダイレクターに転身して、現在は大宮アルディージャも傘下に収めるレッドブルグループのフットボールモデルをほぼゼロから築き上げた名伯楽だ。

 だが、そのラングニックが自身の哲学に従ってスポーツ部門にかかわる全権(トップチームからアカデミーまでの総合的戦略、予算執行権、人事権まで)を要求したのに対し、レッドバード側はそれを受け容れることができずに交渉が停滞、話はワールドカップ開始を前に破談となる。

 ただしその時点では、ラングニックの下での監督候補として名前が挙がっていたオリバー・グラスナー、マティアス・ヤイスレという2人のドイツ人はリストに残っており、彼らの起用を前提としたTD候補として、新たにマルクス・クレーシェ(フランクフルトSD)の名前も浮上した。

 一方、TDの人選とは別に進められていた監督候補のリサーチでは、ボーンマスで好成績を残したアンドニ・イラオラの名前も挙がっており、カルディナーレやカルベッリとコンタクトがあったと伝えられていた。しかしこちらも、イラオラが複数のオファーの中からリバプール行きを選んだことで消滅。そうした中で有力候補として浮かび上がってきたのが、当初からリストに挙がっていたルベン・アモリムだった。

 スポルティング・リスボンで大きな成功を収めて、マンチェスター・ユナイテッドに引き抜かれたものの、結果を残せず昨シーズン途中で解任されていたアモリムは、マルセロ・ビエルサやジャン・ピエロ・ガスペリーニの影響を受けたマンツーマン志向の強い3-4-3システムに強いこだわりを持つ指揮官。

 ラングニック一派が奉ずる4-4-2/4-2-3-1のゾーナルプレッシングとは、そもそもの戦術的な方向性として大きく異なるタイプである。だが、ラングニックとの交渉がまとまらなかったことで「ドイツ路線」が行き詰まり、時間だけが過ぎていく中で、ミランに残された選択肢は多くはなかった。

 
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