あまりに不用意なスローインのミスで開始23秒に先制を許しながら、すぐさま反発して逆転に成功したイタリア代表は、2ー1でアルバニアを下し重要なEURO2024の初戦に勝利を収めた。アッズーリ(イタリア代表の愛称)でとくに注目を集めたのが、センターバック(CB)の一角で長髪をなびかせ、質の高いパスワークでビルドアップに小さくない貢献を果たした新星、リッカルド・カラフィオーリだ。
【動画】カラフィオーリのプレー集をチェック!
2023ー24シーズンのセリエAでチアゴ・モッタ監督率いるボローニャのCBとして頭角を現わした22歳は、EUROに向けた候補メンバーとして初めてA代表招集を受けた。大会前の6月4日に行なわれたトルコ代表との親善試合でデビューを飾ると、5日後のボスニア・ヘルツェゴビナ代表戦ではフル出場。短期間でルチャーノ・スパレッティ監督の厚い信頼を勝ち取り、EURO本大会の初戦でスタメンに抜擢された。
守備の局面では4ー4ー1ー1、攻撃の局面では3ー2ー5という可変システムを採用するイタリアにあって、守備時に4バックの左CBを務めるカラフィオーリは、攻撃時には3バックの左CBとしてプレー。後方からのビルドアップの起点として主にCBアレッサンドロ・バストーニ、MFニコロ・バレッラとパスを交換しつつ、前方にスペースがあれば思い切りよくドリブルで中盤まで持ち上がり、そのまま中盤エリアに留まって実質的なMFとして機能するなど、CBとしてのタスクを超えた次元でアッズーリの攻撃に貢献した。
かつてミランやレアル・マドリー、ローマ、ユベントス、イングランド代表、ロシア代表などを率いた名監督ファビオ・カペッロは、試合翌日の『Gazzetta dello Sport』紙に寄稿した記事のなかで、「これが実質的な代表デビューとは思えないパーソナリティーの強さに驚かされた。大胆不敵なプレーは、かつてマドリーで指導した若きセルヒオ・ラモスを思い出させる」と、新星のパフォーマンスを評価している。
そのS・ラモスとの共通点は、元々はサイドバック(SB)として育ち、のちにCBに転向したところ。数多くのタレントを輩出してきたローマのアカデミーで鍛えられたカラフィオーリは、Uー15からアンダー各年代の代表に選ばれてきたエリートだ。ポジションは育成年代から一貫して左サイドバックで、ローマでもこのポジションでレギュラーを獲って主力へと成長することが期待されていた。
転機が訪れたのは、ローマのトップチームに定着して2年が過ぎた2022年の夏。当時2年目だったジョゼ・モウリーニョ監督の構想から外れる形でスイスのバーゼルに移籍したことだ。22ー23シーズンの途中に、バーゼルでCBにコンバートされて際立ったパフォーマンスを見せると、23年8月にボローニャに引き抜かれている。
ボローニャでは加入当初こそ控えメンバーだったものの、レギュラーCBのジョン・ルクミが故障離脱した穴を埋める形でスタメンに定着した。チアゴ・モッタ監督の指導の下、ビルドアップ時には最終ラインから1列前に出てMFとして機能し、そこからさらに敵陣に進出して仕掛けやフィニッシュにも絡んでいく流動的なプレースタイルを確立。セリエAで5位に入り、来シーズンのチャンピオンズリーグ出場権を獲得したチームの目覚ましい躍進に、主役級の貢献を果たしたのだ。
ローマからバーゼルへの移籍金はわずか240万ユーロ(当時約3億3000万円)で、ボローニャがバーゼルに支払った移籍金も400万ユーロ(当時約6億3000万円)に過ぎないが、それからわずか1年でカラフィオーリの市場評価額は3000万ユーロ(約51億円)まで高騰している。振り返れば、自らの戦術に合わないという理由だけで構想から外し、安値での放出をクラブに強いたモウリーニョの判断は、彼がローマで犯した最も大きな過ちだったと言えるかもしれない。
ボローニャでの活躍でモウリーニョを見返すことになったカラフィオーリは、その勢いで臨んだEUROでも、初戦から際立った活躍を見せている。最終ライン中央でペアを組んだ3歳年上のバストーニとともに、堅守の伝統を誇るアッズーリの最終ラインを今後何年にもわたって支えていく大黒柱としての期待は高まるばかりだ。
バストーニとカラフィオーリ、2人の頭文字を合わせた「BC」は、21年に開催された前回のEURO2020でイタリアを優勝に導いたCBの2人のレジェンド、レオナルド・ボヌッチとジョルジョ・キエッリーニのそれと同じ。今回のEUROで誕生した「新BC」が偉大な先達と同じような足跡をドイツに残せるか。これからの活躍が注目される。
文●片野道郎
【関連記事】前回王者イタリア代表、アルバニア戦で浮かび上がった収穫と課題とは? 「重要な時間帯に致命傷につながりかねない“軽いプレー”が…」【EURO2024】
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2023ー24シーズンのセリエAでチアゴ・モッタ監督率いるボローニャのCBとして頭角を現わした22歳は、EUROに向けた候補メンバーとして初めてA代表招集を受けた。大会前の6月4日に行なわれたトルコ代表との親善試合でデビューを飾ると、5日後のボスニア・ヘルツェゴビナ代表戦ではフル出場。短期間でルチャーノ・スパレッティ監督の厚い信頼を勝ち取り、EURO本大会の初戦でスタメンに抜擢された。
守備の局面では4ー4ー1ー1、攻撃の局面では3ー2ー5という可変システムを採用するイタリアにあって、守備時に4バックの左CBを務めるカラフィオーリは、攻撃時には3バックの左CBとしてプレー。後方からのビルドアップの起点として主にCBアレッサンドロ・バストーニ、MFニコロ・バレッラとパスを交換しつつ、前方にスペースがあれば思い切りよくドリブルで中盤まで持ち上がり、そのまま中盤エリアに留まって実質的なMFとして機能するなど、CBとしてのタスクを超えた次元でアッズーリの攻撃に貢献した。
かつてミランやレアル・マドリー、ローマ、ユベントス、イングランド代表、ロシア代表などを率いた名監督ファビオ・カペッロは、試合翌日の『Gazzetta dello Sport』紙に寄稿した記事のなかで、「これが実質的な代表デビューとは思えないパーソナリティーの強さに驚かされた。大胆不敵なプレーは、かつてマドリーで指導した若きセルヒオ・ラモスを思い出させる」と、新星のパフォーマンスを評価している。
そのS・ラモスとの共通点は、元々はサイドバック(SB)として育ち、のちにCBに転向したところ。数多くのタレントを輩出してきたローマのアカデミーで鍛えられたカラフィオーリは、Uー15からアンダー各年代の代表に選ばれてきたエリートだ。ポジションは育成年代から一貫して左サイドバックで、ローマでもこのポジションでレギュラーを獲って主力へと成長することが期待されていた。
転機が訪れたのは、ローマのトップチームに定着して2年が過ぎた2022年の夏。当時2年目だったジョゼ・モウリーニョ監督の構想から外れる形でスイスのバーゼルに移籍したことだ。22ー23シーズンの途中に、バーゼルでCBにコンバートされて際立ったパフォーマンスを見せると、23年8月にボローニャに引き抜かれている。
ボローニャでは加入当初こそ控えメンバーだったものの、レギュラーCBのジョン・ルクミが故障離脱した穴を埋める形でスタメンに定着した。チアゴ・モッタ監督の指導の下、ビルドアップ時には最終ラインから1列前に出てMFとして機能し、そこからさらに敵陣に進出して仕掛けやフィニッシュにも絡んでいく流動的なプレースタイルを確立。セリエAで5位に入り、来シーズンのチャンピオンズリーグ出場権を獲得したチームの目覚ましい躍進に、主役級の貢献を果たしたのだ。
ローマからバーゼルへの移籍金はわずか240万ユーロ(当時約3億3000万円)で、ボローニャがバーゼルに支払った移籍金も400万ユーロ(当時約6億3000万円)に過ぎないが、それからわずか1年でカラフィオーリの市場評価額は3000万ユーロ(約51億円)まで高騰している。振り返れば、自らの戦術に合わないという理由だけで構想から外し、安値での放出をクラブに強いたモウリーニョの判断は、彼がローマで犯した最も大きな過ちだったと言えるかもしれない。
ボローニャでの活躍でモウリーニョを見返すことになったカラフィオーリは、その勢いで臨んだEUROでも、初戦から際立った活躍を見せている。最終ライン中央でペアを組んだ3歳年上のバストーニとともに、堅守の伝統を誇るアッズーリの最終ラインを今後何年にもわたって支えていく大黒柱としての期待は高まるばかりだ。
バストーニとカラフィオーリ、2人の頭文字を合わせた「BC」は、21年に開催された前回のEURO2020でイタリアを優勝に導いたCBの2人のレジェンド、レオナルド・ボヌッチとジョルジョ・キエッリーニのそれと同じ。今回のEUROで誕生した「新BC」が偉大な先達と同じような足跡をドイツに残せるか。これからの活躍が注目される。
文●片野道郎
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