今夏、ビッグクラブの脅威に晒されていたアスレティック・ビルバオとレアル・ソシエダのそれぞれの移籍市場の超注目銘柄が、ほぼ同じ時期に残留を選択した。ニコ・ウィリアムスとマルティン・スビメンディだ。前者はバルセロナから、後者はリバプールからオファーを受けていた。
先に断っておくと、現時点で両者とも残留を公言しているわけではない。
スビメンディの場合は、サン・セバスティアンの地元一般紙『ノティシアス・デ・ギプスコア』が今月12日に残留を決断したと報じ、既成事実化されている。一方のニコ・ウィリアムスの場合も、昨シーズン限りで退団したイケル・ムニアインの付けていた10番を引き継ぐことが発表されたことが決め手となり、もはや動かぬ事実として捉えられている。実際、スペイン紙『ムンド・デポルティボ』はその発表を受け、バルサがルイス・ディアス(リバプール)への関心を再燃させ、キングスレイ・コマン(バイエルン)やラファエウ・レオン(ミラン)の獲得を検討していると報じている。
かくして2人の残留決定のニュースはスペイン国内でも大きく取り上げられ、その中には年々ビジネスライクに物事が進むサッカー界においても、「まだまだロマンティシズムは存在する」と好意的な反応が大半を占めている。
見逃せないのは、2人がいずれもバスクのクラブ所属の選手である点だ。『マルカ・ラジオ』で自身の名前を冠した番組『ラ・ピサーラ・デ・キンターナ』のMCを務めるミゲル・キンターナ氏は、「地域密着や若手育成を重視するアスレティックとソシエダの文化が、彼らのようなクラブ愛を体現する選手を育んだ」と強調する。「ニコ・ウィリアムスとスビメンディの決断は、もちろん彼ら自身についても多くを語っているが、それ以上に多くを語っているのが、アスレティックとソシエダについてだ。クラブとしての在り方、帰属意識、慰留を説得するうえで必要不可欠な要素であるプロジェクトの遂行能力が問われていた」
その論点を受けてさらに深堀りするのが、バレンシアのスポーツ紙『スーペルデポルテ』の報道部門のチーフを務めるビセン・チレ氏だ。
「サッカー界ではとかくロマンティックな物語が好まれる。強豪を倒す小さなチーム、年俸と夢が何倍にも膨れ上がるオファーを提示するメガクラブを袖にして、生涯のクラブに忠誠を尽くす地元のスター選手。今回のようなニュースは、我々を元気づけ、共感させ、自分たちが応援するクラブチームでも同じような選手が現われることを切望させる」
「ミゲル・キンターナ氏が指摘したように、このような頑なな忠誠心の物語は、主人公たちだけでなく、そのシナリオを成立させるクラブについて多くを語っている。クラブが基本的な柱としてその選手の意識の中で認識されていること。アイデンティティ、競技への伝統性、社会大衆への関わり方を尊重し、持続可能かつゆとりのある野心的なプロジェクトが存在すること。そうした事象に対し、真摯に取り組む組織文化が時代や流行に流されることなく、あらゆるレベルでそのクラブを特徴づけるとき、より大きな世界を知り、より華々しい栄光を掴むチャンスを諦めるカンテラーノの英雄的行為は、もはや虚空への跳躍とは思えなくなる」
「ロマンティシズムは極めてクレイジーな行為かもしれないが、その実多くの理性、もっと言えば退屈な日常の上に成り立っている。つまり普通のサッカークラブを目指す志を持つことから始めればいいのだ」
8月18日、ホームにラージョ・バジェカーノを迎えたラ・リーガ開幕戦でスタメンを外れたスビメンディが前半終了間際、ウォームアップのためにピッチ脇に登場すると、スタンドからは惜しみない拍手が注がれた。そこには英雄のクラブ愛が育まれた日常が確かに存在した。
文●下村正幸
【動画】スビメンディが途中出場から意地の一発! 開幕のラージョ戦ハイライトをチェック
先に断っておくと、現時点で両者とも残留を公言しているわけではない。
スビメンディの場合は、サン・セバスティアンの地元一般紙『ノティシアス・デ・ギプスコア』が今月12日に残留を決断したと報じ、既成事実化されている。一方のニコ・ウィリアムスの場合も、昨シーズン限りで退団したイケル・ムニアインの付けていた10番を引き継ぐことが発表されたことが決め手となり、もはや動かぬ事実として捉えられている。実際、スペイン紙『ムンド・デポルティボ』はその発表を受け、バルサがルイス・ディアス(リバプール)への関心を再燃させ、キングスレイ・コマン(バイエルン)やラファエウ・レオン(ミラン)の獲得を検討していると報じている。
かくして2人の残留決定のニュースはスペイン国内でも大きく取り上げられ、その中には年々ビジネスライクに物事が進むサッカー界においても、「まだまだロマンティシズムは存在する」と好意的な反応が大半を占めている。
見逃せないのは、2人がいずれもバスクのクラブ所属の選手である点だ。『マルカ・ラジオ』で自身の名前を冠した番組『ラ・ピサーラ・デ・キンターナ』のMCを務めるミゲル・キンターナ氏は、「地域密着や若手育成を重視するアスレティックとソシエダの文化が、彼らのようなクラブ愛を体現する選手を育んだ」と強調する。「ニコ・ウィリアムスとスビメンディの決断は、もちろん彼ら自身についても多くを語っているが、それ以上に多くを語っているのが、アスレティックとソシエダについてだ。クラブとしての在り方、帰属意識、慰留を説得するうえで必要不可欠な要素であるプロジェクトの遂行能力が問われていた」
その論点を受けてさらに深堀りするのが、バレンシアのスポーツ紙『スーペルデポルテ』の報道部門のチーフを務めるビセン・チレ氏だ。
「サッカー界ではとかくロマンティックな物語が好まれる。強豪を倒す小さなチーム、年俸と夢が何倍にも膨れ上がるオファーを提示するメガクラブを袖にして、生涯のクラブに忠誠を尽くす地元のスター選手。今回のようなニュースは、我々を元気づけ、共感させ、自分たちが応援するクラブチームでも同じような選手が現われることを切望させる」
「ミゲル・キンターナ氏が指摘したように、このような頑なな忠誠心の物語は、主人公たちだけでなく、そのシナリオを成立させるクラブについて多くを語っている。クラブが基本的な柱としてその選手の意識の中で認識されていること。アイデンティティ、競技への伝統性、社会大衆への関わり方を尊重し、持続可能かつゆとりのある野心的なプロジェクトが存在すること。そうした事象に対し、真摯に取り組む組織文化が時代や流行に流されることなく、あらゆるレベルでそのクラブを特徴づけるとき、より大きな世界を知り、より華々しい栄光を掴むチャンスを諦めるカンテラーノの英雄的行為は、もはや虚空への跳躍とは思えなくなる」
「ロマンティシズムは極めてクレイジーな行為かもしれないが、その実多くの理性、もっと言えば退屈な日常の上に成り立っている。つまり普通のサッカークラブを目指す志を持つことから始めればいいのだ」
8月18日、ホームにラージョ・バジェカーノを迎えたラ・リーガ開幕戦でスタメンを外れたスビメンディが前半終了間際、ウォームアップのためにピッチ脇に登場すると、スタンドからは惜しみない拍手が注がれた。そこには英雄のクラブ愛が育まれた日常が確かに存在した。
文●下村正幸
【動画】スビメンディが途中出場から意地の一発! 開幕のラージョ戦ハイライトをチェック
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