専門5誌オリジナル情報満載のスポーツ総合サイト

  • サッカーダイジェスト
  • WORLD SOCCER DIGEST
  • スマッシュ
  • DUNK SHOT
  • Slugger
海外サッカー

宿敵アルゼンチンに対する、ブラジル人の“複雑な感情”「もっと早く負けてほしかった。でもメッシのプレーには魅了された」【現地発コラム】

THE DIGEST編集部

2026.07.26

優勝したカタール大会に続き、2大会連続で決勝まで上り詰めたアルゼンチン。一方のブラジルは準々決勝で敗れた前回大会のように、今大会でもラウンド・オブ16で敗退と、またも期待を裏切った。(C)Getty Images

優勝したカタール大会に続き、2大会連続で決勝まで上り詰めたアルゼンチン。一方のブラジルは準々決勝で敗れた前回大会のように、今大会でもラウンド・オブ16で敗退と、またも期待を裏切った。(C)Getty Images

「ペレとマラドーナ、どちらが史上最高か」と問われれば、ブラジル人に迷いはない。答えはペレだ。しかし、それとマラドーナへの敬意は別の話である。

 敵だからこそ倒したい。それでも、その才能には惜しみない拍手を送る。それがブラジルというサッカー大国の文化でもある。

 その感覚は、そのままリオネル・メッシにも受け継がれている。

 アルゼンチン代表の象徴であり、倒すべき最大のライバル。それでもブラジルでは、メッシを単なる「嫌いなアルゼンチン人」と考える人は少ない。現代サッカー最高の才能。その評価は国境を越えて共有されている。

 2002年日韓W杯優勝メンバーのカフーは、2022年カタールW杯決勝前にこう語った。

「私はメッシを応援する。つまりアルゼンチンを応援する。試合を決定付けるような偉大な選手が好きなんだ」

 この発言はブラジル国内で大きな議論を呼んだ。

「ライバルを応援するなんてあり得ない」

 そう批判する声がある一方で、「メッシほどの選手なら応援してもいい」。そう考える人も決して少なくなかった。

 今回のW杯では、その傾向がさらに強まった。ブラジルの敗退後、多くの人がアルゼンチンを応援し始めたのである。もちろんSNSでは「裏切り者」との批判も噴き出した。

 しかし、それ以上に目立ったのは、「メッシのプレーをもっと見たい」という声だった。

 リオデジャネイロやサンパウロでは、アルゼンチン代表のユニホームを着たブラジル人の姿まで見られた。20年前なら考えられなかった光景である。

 一方で、ブラジル代表を応援するアルゼンチン人はほとんどいない。この違いもまた、このライバル関係の面白さと言えるだろう。

 その変化はブラジル国内リーグにも表れている。近年のブラジル・セリエAでは、およそ40人ものアルゼンチン人選手がプレーし、外国人選手の約4割を占めるまでになった。20年前にはわずか3%程度だったことを思えば、隔世の感がある。

 監督も同様だ。コリンチャンス、パルメイラス、クルゼイロ、ヴァスコ・ダ・ガマ、バイーア、フォルタレーザなど、多くの名門クラブでアルゼンチン人指導者が指揮を執っている。

 
 ブラジルサッカー界は、ライバル国の指導者たちの能力を高く評価し、信頼を寄せているのである。その逆に、アルゼンチンリーグでプレーするブラジル人は片手で数えられるほどしかいない。

 もちろん、その現実を受け入れるのは決して容易ではない。しかし、今のブラジルでは、「アルゼンチンの方が強い」と認める人が確実に増えている。

 悔しい。それでも強さは強さとして認める。その上で追いつき、追い越そうとする。
だからブラジルはアルゼンチンを研究し続ける。最大のライバルだからこそ、決して目を離すことができない。

 そしてメッシは、その最大のライバル国から現われながらも、「現代最高の選手」と認められた数少ない存在となった。

 アルゼンチンにはもっと早く負けてほしかった。でも、メッシのプレーには魅了された――。その矛盾こそが、2026年W杯が終わったいま、多くのブラジル人が抱えている本音なのかもしれない。

 ライバルとは憎む相手ではない。自分たちを強くしてくれる相手だ。ブラジルとアルゼンチンは、これからも互いを認めたくないと言いながら、互いを見つめ続けるのだろう。

 かつてブラジルとアルゼンチンの間には、決して相容れない「国境」があった。

 その国境は今も消えてはいない。ただ、その向こう側に立つ相手へ向ける感情は、かつてより少しだけ複雑になっている。

文●リカルド・セティオン
翻訳●利根川晶子

【著者プロフィール】
リカルド・セティオン(Ricardo SETYON)/1963年8月29日生まれ、ブラジル・サンパウロ出身。ジャーナリストとして中東戦争やユーゴスラビア紛争などを現地取材した後、社会学としてサッカーを研究。スポーツジャーナリストに転身する。8か国語を操る語学力を駆使し、世界中の現場を取材。多数のメディアで活躍する。過去にはFIFAの広報担当を務め、1998年と2002年のW杯ではブラジル代表の広報スタッフとして活躍。ジーコやカフー、ドゥンガらとの親交も厚い。スポーツ運営学、心理学の教授として大学で教鞭も執っている。

【現地発コラム】R16敗退のセレソンが“本当に失ったもの”「ブラジルでサッカーはスポーツではない。文化であり、宗教であり、国家そのものだ」

【現地発コラム】セレソンが体感した恐怖、日本代表への敬意、試合の裏で行なわれた文化交流「ブラジル国民は日本の実力を高く評価し、拍手を送った」

【記事】「セレソンは二度とW杯で優勝できない」ブラジル国内で広がる“悲観的ムード”「タイトルを逃したことへの失望感が高まっている」地元メディア報道
 

RECOMMENDオススメ情報

MAGAZINE雑誌最新号

  • soccer_digest

    6月3日(水)発売

    定価:980円 (税込)
  • world_soccer_digest

    7月23日(木)発売

    定価:890円 (税込)
  • smash

    7月23日(木)発売

    定価:800円 (税込)
  • dunkshot

    6月26日(金)発売

    定価:1100円 (税込)
  • slugger

    7月24日(金)発売

    定価:1100円 (税込)