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海外サッカー

“ベスト16をドブに捨てた”ミランのCL敗退、「戦力や戦術以上に、チームの結束やクラブとの信頼関係にかかわる組織論的な問題が――」【現地発コラム】

片野道郎

2025.02.20

優勢に試合を進めていたミランだったが、51分のテオの退場で10人に。その後フェイエノールトにゴールを許してしまい、2試合合計1ー2で敗れCLベスト16進出はならなかった。(C)Getty Images

優勢に試合を進めていたミランだったが、51分のテオの退場で10人に。その後フェイエノールトにゴールを許してしまい、2試合合計1ー2で敗れCLベスト16進出はならなかった。(C)Getty Images

 それでも、この51分の時点ではまだ2試合合計1ー1のイーブン。ひとり少なくなったとはいえ、それまで一方的に押していたことを考慮すれば、そのまま敗退につながるような状況ではなかった。ゲームプランを切り替え、それに合わせてチームを再構築すればいい話である。10人になったチームがむしろいい試合をするというのもよくあるし、個のクオリティーでは明らかにミランが上回っている。しかしミランはその切り替えができなかった。

 コンセイソン監督は、中盤のムサをテオが抜けた左SBに移し、その中盤センターにトップ下のJ・フェリックスを下げて4ー4ー1とする修正を施したが、チームの振る舞いは受動的になり、フェイエノールトに試合のペースを握られていく。63分に右WGプリシックを下げて生え抜きの若手SBダビデ・バルテサーギを左SBに入れ、ムサを中盤に戻し、J・フェリックスを右WGに動かして、さらに71分にはCFヒメネスを下げて中盤のフォファナを投入。ムサを右WG、J・フェリックスをCFに移すなど、少しずつチームに手を加えるが、反撃の糸口を掴むことはできないままだった。

 逆に73分、押し込まれて左右に揺さぶられた後、左からのクロスをFWフリアン・カランサに頭で決められ、2試合合計1ー2となる同点ゴールを許してしまう。試合終盤は相手が受けに回ったこともあり、押し気味の展開にはなったものの、決定機らしい決定機は一度も作れないままタイムアップとなった。

 直接の敗因が、馬鹿げたファウルを二度繰り返してすべてをぶち壊しにしたテオの退場劇にあることは確か。しかし、チームがそこからの40分に修正も反発もできないまま、不甲斐なく試合を終えたこともまた、もう一面の事実である。冒頭で触れたレジリエンスの欠如、選手交代で流れを変えられなかった指揮官の手腕不足もまた、この不本意な敗退をもたらした大きな要因に数えなければならないだろう。

 今から1か月前、リーグフェーズが残り1試合となった時点でミランは6位につけており、トップ8に入ってベスト16に直接勝ち上がるためには、最終戦でディナモ・ザグレブ(すでに敗退が濃厚になっていた)に勝つだけでよかった。しかし、格下相手のその試合では、CBマッテオ・ガッビアのミスから先制点を献上しただけでなく、ムサが前半39分に2枚目のイエローカードをもらって退場になり、その後一度は同点に追いついたものの、最後は勝ち越しを許して敗戦。濃厚と思われていたトップ8入りを逃している。

 プレーオフの第1レグでも、開始直後の3分にエリア外からの何でもないシュートをGKマイク・メニャンがセーブミスして先制を許し、その後は攻めあぐねて、あっけなく敗れている。第2レグも含めて、不用意なミスによって自らを困難に陥れ、それを立て直すどころかチームが結束を失って事態をさらに悪化させて自滅する展開の繰り返しだった。
 
 今シーズンのミランは、パウロ・フォンセカ前監督の下で迎えた開幕直後から、チームの内部に問題を抱えてきた。テオとレオンは一度ならず監督への不服従でメンバーを外され、攻撃の柱としての活躍が期待されて夏に加入したアルバロ・モラタはわずか半年で退団。生え抜きのキャプテン、ダビデ・カラブリアも12月30日に就任した新監督コンセイソンとの間に生じたトラブルからボローニャへの移籍を強いられた。

 監督が変わっても状況が変わらないとすれば、より根本的なところでチームが問題を抱えているのではないか、という仮説を立てざるをえない。グループとしての結束が欠けているだけでなく、クラブがチームを十分に掌握できていない、というのがそれだ。コンセイソン監督は試合後、「このクラブを取り巻く空気は好ましいものではない。それを何とかしなければならない。選手のメンタリティーの問題を解決するのは簡単ではない」と語っている。

 CLではベスト16に進出できず敗退し、セリエAでは欧州カップ戦圏外の8位前後に停滞。スーペルコッパのタイトルを勝ち取り、コッパ・イタリアで準決勝に勝ち残っているとしても、ミランの今シーズンはポジティブに評価できるものではない。この失敗は、戦力的な、あるいは戦術的な問題以上に、チームの結束やクラブとチームの信頼関係にかかわる組織論的な問題がもたらしたものだと言うこともできるだろう。

 その意味では、開幕直後に起こったテオとレオンの不服従問題から、フォンセカ監督の選手批判、年末の監督交代、コンセイソン監督とカラブリアの対立、モラタとカラブリアの放出、そして今回のCL敗退までは、1本の糸でつながっているとも言える。

 逆に言えば、クラブ、監督、チームが一体となり、共通の目標に向かって結束し、一人ひとりがベストを尽くす環境を作り出せない限り、現状を脱却するのは難しいということだ。オーナーの「シニア・アドバイザー」という立場で実質的なトップの座に収まり、クラブを率いる立場にあるズラタン・イブラヒモビッチの手腕が問われているのかもしれない。

文●片野道郎

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