しかし、この2つのプランが実現すると、ミラノ市は年間1100万ユーロ(約17.9億円)の賃貸収入をもたらしていたサン・シーロの借り主を失い、老朽化したスタジアムを借り手のない状態で持て余すという最悪の事態に直面する。ミラノ市のジュゼッペ・サーラ市長は24年2月、それに対する最後の抵抗とばかりに、改めて現スタジアムの大規模改築計画案を策定し、両クラブに提示した。
イタリア最大のゼネコン『WeBuild』と共同で策定されたこの計画は、スタジアムを閉鎖することなく段階的な改築を行ない、7万人収容の現代的なスタジアムに造り替えるというものだった。しかしミランとインテルはこれに対しても、商業施設としての機能性が不十分であること、クラブに負担が求められている建設コストが過大であることなどを理由に受け入れを拒否。これでサン・シーロが近い将来放棄される運命は確実になったように見えた。サーラ市長も「コンサート会場などへの転用の道も考えざるをえない」と悲観的なコメントを出していた。
ところが24年9月になって、当初の「新サン・シーロ」構想実現にとって最大のネックだった文化財保護に関する「25年問題」が解決する可能性が浮上する。文化財保護監督局が、公共施設ではなく私有の施設に対しては、保護規制が自動的に適用されるわけではないこと、また保護規制が適用される場合にも問題の2階部分を全面的に残す必要はなく、一部を象徴的な形で残すことで、規制をクリアできると明らかにしたのだ。
これを受ける形でミラノ市と両クラブは、市がスタジアムと周辺の土地を両クラブに売却して「私有化」し、そのうえで隣接地への新スタジアム建設と現スタジアムの(一部)解体を進めるという形で、当初の「新サン・シーロ」構想に立ち戻る可能性を改めて検討し始める。そしてそれからおよそ半年を経たこの3月、ミランとインテルが連名でミラノ市に対して、300ページに及ぶ正式な買収提案書を提出したというわけだ。
とはいえ、これで「新サン・シーロ」の建設が決定したわけではない。この構想を具体化するためには、いくつかの手続きを経て、公共建築物への文化財保護規制が発動する前に買収を完了させ、さらにそこから具体的な実施計画が様々な規制に適合しているかどうかの審査などを経る必要があるからだ。
今後の手続きは以下のようになる。
・3月末:ミラノ市がスタジアムと周辺地域の売却について公開入札を公示する
・ミランとインテルが入札を行ない、買収の権利を確定させる
・ミランとインテルが実施計画を提出し、関係各機関による一次審査を受ける
・一次審査の通過後、正式な買収手続き(25年7月がメド)
・その後も計画案に対する各機関の審査が継続(文化財保護監督局含む)
・買収後1年以内にスタジアム建設の最終的な承認が得られない場合、契約は自動的に無効に
・26年:現サン・シーロでミラノ・コルティナ冬季五輪の開会式開催
・27年:新スタジアム建設工事着工、試合は現サン・シーロで継続開催
・30年:新スタジアム竣工、両チームが移転し現サン・シーロは解体へ
両クラブもミラノ市も、このロードマップ通りに物事が進むことを望んでおり、文化財保護監督局を含めた関係各方面も協力的な姿勢を打ち出している。それでも、一部市民による反対運動は今も続いており、また関係各機関による審査の過程で新たな制約や計画変更を余儀なくされる可能性もあるなど、計画が順調に進む保証はない状況に変わりはない。
それもあって、ミランは並行して進めていたサン・ドナートへの新スタジアム計画(すでにおよそ5000万ユーロ=約81億円=を投資済み)も、当面「プランB」としてキープする方針。もし新サン・シーロが実現した場合、こちらはアカデミー専用のトレーニングセンターに転用する見通しだ。一方のインテルは、ロッツァーノへの新スタジアム計画を昨年春の時点で一旦凍結しており、「新サン・シーロ」構想の実現に集中する姿勢を打ち出している。
いずれにしても、19年にスタートしたミラノの新スタジアム計画が、まる6年という長い期間を無駄にした末、最終的な決着の時を迎えようとしていることは確か。はたして今度こそ「新サン・シーロ」が実現するのか、あるいはこの構想すらも頓挫して、ミランとインテルが別々のスタジアムを新設する未来がやって来るのか。今後数ヶ月の動向が注目される。
文●片野道郎
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イタリア最大のゼネコン『WeBuild』と共同で策定されたこの計画は、スタジアムを閉鎖することなく段階的な改築を行ない、7万人収容の現代的なスタジアムに造り替えるというものだった。しかしミランとインテルはこれに対しても、商業施設としての機能性が不十分であること、クラブに負担が求められている建設コストが過大であることなどを理由に受け入れを拒否。これでサン・シーロが近い将来放棄される運命は確実になったように見えた。サーラ市長も「コンサート会場などへの転用の道も考えざるをえない」と悲観的なコメントを出していた。
ところが24年9月になって、当初の「新サン・シーロ」構想実現にとって最大のネックだった文化財保護に関する「25年問題」が解決する可能性が浮上する。文化財保護監督局が、公共施設ではなく私有の施設に対しては、保護規制が自動的に適用されるわけではないこと、また保護規制が適用される場合にも問題の2階部分を全面的に残す必要はなく、一部を象徴的な形で残すことで、規制をクリアできると明らかにしたのだ。
これを受ける形でミラノ市と両クラブは、市がスタジアムと周辺の土地を両クラブに売却して「私有化」し、そのうえで隣接地への新スタジアム建設と現スタジアムの(一部)解体を進めるという形で、当初の「新サン・シーロ」構想に立ち戻る可能性を改めて検討し始める。そしてそれからおよそ半年を経たこの3月、ミランとインテルが連名でミラノ市に対して、300ページに及ぶ正式な買収提案書を提出したというわけだ。
とはいえ、これで「新サン・シーロ」の建設が決定したわけではない。この構想を具体化するためには、いくつかの手続きを経て、公共建築物への文化財保護規制が発動する前に買収を完了させ、さらにそこから具体的な実施計画が様々な規制に適合しているかどうかの審査などを経る必要があるからだ。
今後の手続きは以下のようになる。
・3月末:ミラノ市がスタジアムと周辺地域の売却について公開入札を公示する
・ミランとインテルが入札を行ない、買収の権利を確定させる
・ミランとインテルが実施計画を提出し、関係各機関による一次審査を受ける
・一次審査の通過後、正式な買収手続き(25年7月がメド)
・その後も計画案に対する各機関の審査が継続(文化財保護監督局含む)
・買収後1年以内にスタジアム建設の最終的な承認が得られない場合、契約は自動的に無効に
・26年:現サン・シーロでミラノ・コルティナ冬季五輪の開会式開催
・27年:新スタジアム建設工事着工、試合は現サン・シーロで継続開催
・30年:新スタジアム竣工、両チームが移転し現サン・シーロは解体へ
両クラブもミラノ市も、このロードマップ通りに物事が進むことを望んでおり、文化財保護監督局を含めた関係各方面も協力的な姿勢を打ち出している。それでも、一部市民による反対運動は今も続いており、また関係各機関による審査の過程で新たな制約や計画変更を余儀なくされる可能性もあるなど、計画が順調に進む保証はない状況に変わりはない。
それもあって、ミランは並行して進めていたサン・ドナートへの新スタジアム計画(すでにおよそ5000万ユーロ=約81億円=を投資済み)も、当面「プランB」としてキープする方針。もし新サン・シーロが実現した場合、こちらはアカデミー専用のトレーニングセンターに転用する見通しだ。一方のインテルは、ロッツァーノへの新スタジアム計画を昨年春の時点で一旦凍結しており、「新サン・シーロ」構想の実現に集中する姿勢を打ち出している。
いずれにしても、19年にスタートしたミラノの新スタジアム計画が、まる6年という長い期間を無駄にした末、最終的な決着の時を迎えようとしていることは確か。はたして今度こそ「新サン・シーロ」が実現するのか、あるいはこの構想すらも頓挫して、ミランとインテルが別々のスタジアムを新設する未来がやって来るのか。今後数ヶ月の動向が注目される。
文●片野道郎
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