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“適応力”こそ最強の武器!ルバキナが過酷な転戦を乗り越え「ツアーファイナルズ」進出当確!<SMASH>

内田暁

2025.10.25

前週開催大会とは異なる環境とも戦いながらルバキナは「東レPPOテニス2025」で4強入りを果たしシーズン最終戦「ツアーファイナルズ」への出場を確実にした。写真:金子拓弥(THE DIGEST 写真部)

 テニス選手に求められる最も重要な資質の一つは、おそらくは、適応力だ。

 日々対戦する選手たちは、個性もプレースタイルも異なる。試合開始時間も日々異なれば、天候に応じてコンディションも変わっていく。それは、コートの中だけではない。毎週のように一つの町から次の町へと転戦し、気温や風土、文化や食べ物など、あらゆる変化に適応していくことが、"ツアープロ"には求められる。
 
 先週の中国・寧波大会で優勝したエレーナ・ルバキナ(カザフスタン)は、現在東京で開催中の「東レパンパシフィックオープン」に参戦している選手の中で、最もその能力が試されている一人だろう。寧波は連日、気温と湿度も高かったという。その中で連日熱闘を制し、決勝を終えたのは19日の日曜日。翌日の朝には移動し、東京に到着したのは、大会が既に始まっている月曜日の夜だった。

 折しも東京の気温は急激に下がり、天気も崩れ始めた時分。コートも使用球も異なる中で、適応は困難を極めたはずだ。

 事実、「2大会連続優勝を狙う上で、最も難しいこと」を問われた時、彼女はこの点を挙げた。

「最も難しいのは、異なる町に移動し、異なる環境に適応すること。東京は寒く、しかも天候によって屋根が閉じるか空くかもわからない。何より大きいのは気温差。先週の中国では外に出ると温かったが、ここでは身体を温めるため、ウォームアップに多くの時間を割かなくてはいけない」

 世界7位が直面していたのは、好調であるがゆえのジレンマだった。

 3回戦の対戦相手も、ルバキナにとってある種のテストだった。18歳のビクトリア・エムボコ(カナダ/同23位)は、今季ツアー界に現れた新星。両者はこの夏に2度対戦し、直近のモントリオールマスターズでは、エムボコがフルセットの死闘の末に勝利していた。サービスとストロークは爆発的な威力を誇り、何より若さゆえのエネルギーに満ちている。

 そんな若手の勢いを、26歳のウインブルドン優勝経験者は、強打と巧みな戦術で封じてみせた。この日は朝からの雨のため、スタジアムの屋根が閉じていたことも、ビッグサーバーのルバキナには優位に働いただろうか。センターやワイドに打ち分けるサービスは、時速190キロを超え、最速で197キロを記録。ストローク戦でも強打のみならず、ややスピードを落としたクロスを浅く鋭角に打ち、相手を前後に揺さぶってみせた。
 
「私の基本スタイルは攻撃だけれど、もちろん相手に応じて変える」とルバキナが言う。

「ビクトリアは素晴らしい選手だし、特に彼女のサービスが好調の時は難しい試合になる。競った試合では、重要な局面での決断や、幾つかのミスが勝敗を分ける。相手のプレーに適応し、相手に心地よく打たせないことを考えた」

 確かに第2セットの終盤では、態勢を崩しながら打つエムボコのショットが、ラインを割る場面が増えた。最終スコアは、6-3、7-6(4)。終わってみれば、自身のサービスゲームは全てキープしたルバキナの、快勝とも言える内容だった。

 優勝した先週の寧波大会に続き、東京でもベスト4。この結果によりルバキナは、年間レース上位8名のみが出場できる、11月の「WTAツアーファイナルズ」への出場権を確実にした。
 
 今大会を迎えた時点でルバキナは、ベスト4入りがツアーファイナルズ確定の条件であることは当然知っていた。そのプレッシャーを感じながらも、「先週から、1試合ずつ集中するよう努めてきた」とも彼女は言う。

 ツアーを通し推移していく目標や、日々の状況に適応していくこと――。その能力を発揮した末につかみ取った、ツアーファイナルズへの切符だった。

取材・文●内田暁

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【動画】ルバキナがエムボコを破りツアー最終戦進出を決めた「東レPPOテニス2025」準々決勝ハイライト