Haru INOUEとは、なにものかーー?
今大会が始まる前、プレスルームではそんな声が囁かれていた。大会公式ホームページ等に掲載される練習スケジュールには、"JPN"の国名表記を伴うこの名が、多く登場したからだ。しかも練習相手も、ベンチッチやオスタペンコら、トップ選手たちばかり。しかし大会のドローを見ると、シングルスにもダブルスにも彼女の名前はない。日本のみならず海外の記者が不思議に思ったのも、無理からぬことだろう。
果たしてハル・イノウエ氏は、カンザス州のウィチタ・ステート大学に通う学生。女子選手との練習が多かったため女性かとも思われたが、井上晴と漢字で書く男性だった。
現在22歳の井上は、高校までは"Team Yonezawa"にも所属し、日本を拠点としてジュニアキャリアを送っていた。そして卒業が迫った時、彼の進路として浮上したのは、「日本かアメリカの大学進学」。「英語もほとんどできなかったので、不安しかない」状態ながらアメリカの大学を選んだのは、「テニスで強くなりたい」との思いからだった。
NCAAの一部リーグで4年間戦い、卒業が半年後に迫った今夏は、ITFトーナメントにも出場。1.5万ドル大会ではタイトルをもつかんだが、それでも「やはりタフな世界」との思いを新たにし、将来はまだ決めていないと言う。 ただ、大学進学のため渡米を決意した時と同様に、新しい世界に飛び込み何かを得たいという意欲は旺盛で、決断力と行動力もある井上青年。大学のチームメイトがUSオープンでヒッティングパートナーをしていたことを知ると、「僕もやりたい」とコーチに訴え、推薦状を書いてもらうことに。さらには自分でもUSTAに売り込んで、見事射止めたヒッティングパートナーの座だった。
「誰もが目指す世界最高峰の舞台。その雰囲気を感じてみたかった」と切望し訪れたUSオープンの会場では、練習でも、選手たちの真剣味や迫力を感得する日々だと言う。その彼が、ヒッティングパートナーとして心掛けているのが、「自分が得意とするストロークで、ラリーを続けミスをしないこと」。相手の強打をしっかり打ち返すその正確性と、彼の真剣な姿勢もまた、選手たちに気に入られる要因なのだろう。連日、男子も含め3~4人の選手と練習をこなすなど、引く手あまたな様子である。
この先、どのような道や職業を選ぶかは、本人にもまだわからない。ただ、アメリカ生活や大学テニスの団体戦で学んだこと、そして今回のUSオープンで体感した頂上の空気感は、今後何をするにしても、必ず糧になることだろう。
取材・文●内田暁
今大会が始まる前、プレスルームではそんな声が囁かれていた。大会公式ホームページ等に掲載される練習スケジュールには、"JPN"の国名表記を伴うこの名が、多く登場したからだ。しかも練習相手も、ベンチッチやオスタペンコら、トップ選手たちばかり。しかし大会のドローを見ると、シングルスにもダブルスにも彼女の名前はない。日本のみならず海外の記者が不思議に思ったのも、無理からぬことだろう。
果たしてハル・イノウエ氏は、カンザス州のウィチタ・ステート大学に通う学生。女子選手との練習が多かったため女性かとも思われたが、井上晴と漢字で書く男性だった。
現在22歳の井上は、高校までは"Team Yonezawa"にも所属し、日本を拠点としてジュニアキャリアを送っていた。そして卒業が迫った時、彼の進路として浮上したのは、「日本かアメリカの大学進学」。「英語もほとんどできなかったので、不安しかない」状態ながらアメリカの大学を選んだのは、「テニスで強くなりたい」との思いからだった。
NCAAの一部リーグで4年間戦い、卒業が半年後に迫った今夏は、ITFトーナメントにも出場。1.5万ドル大会ではタイトルをもつかんだが、それでも「やはりタフな世界」との思いを新たにし、将来はまだ決めていないと言う。 ただ、大学進学のため渡米を決意した時と同様に、新しい世界に飛び込み何かを得たいという意欲は旺盛で、決断力と行動力もある井上青年。大学のチームメイトがUSオープンでヒッティングパートナーをしていたことを知ると、「僕もやりたい」とコーチに訴え、推薦状を書いてもらうことに。さらには自分でもUSTAに売り込んで、見事射止めたヒッティングパートナーの座だった。
「誰もが目指す世界最高峰の舞台。その雰囲気を感じてみたかった」と切望し訪れたUSオープンの会場では、練習でも、選手たちの真剣味や迫力を感得する日々だと言う。その彼が、ヒッティングパートナーとして心掛けているのが、「自分が得意とするストロークで、ラリーを続けミスをしないこと」。相手の強打をしっかり打ち返すその正確性と、彼の真剣な姿勢もまた、選手たちに気に入られる要因なのだろう。連日、男子も含め3~4人の選手と練習をこなすなど、引く手あまたな様子である。
この先、どのような道や職業を選ぶかは、本人にもまだわからない。ただ、アメリカ生活や大学テニスの団体戦で学んだこと、そして今回のUSオープンで体感した頂上の空気感は、今後何をするにしても、必ず糧になることだろう。
取材・文●内田暁