国内テニス

それは運命だったのか――。東レPPO初優勝の大坂なおみが願った「3度目のおまじない」とは…

内田暁

2019.09.23

「多くのことを経験し、それらが今の私を形作っている」と語る大坂は、自分自身が新たなステージへ踏み出したことを実感しているようだ。(C)Getty Images

【東レ・パン・パシフィック・オープン】
シングルス決勝/9月22日(日)
大坂なおみ[1] 6-2 6-3  A・パブリチェンコワ

Third time's the charm――

 それは準決勝を終えた彼女が、決勝戦に向けて自ら口にした言葉だ。直訳すれば「3度目のおまじない」、日本語にすれば「3度目の正直」。 そしてこの「Charm=おまじない」は、対パブリチェンコワ戦の決勝戦で、2度、実現する。

 それは彼女がこの試合で手にした、3度目のマッチポイントだった。相手のサービスゲームで手にした2本のマッチポイントは、「固くなって」取り逃す。優勝直後のオンコートインタビューで、彼女が「ちょっと緊張した~」と苦笑いと共に振り帰った場面だ。

 だが続くゲームでは、勝利へと邁進する彼女は、一球たりとも遠回りしない。パブリチェンコワが放った快心のドロップショットをも、出足するどく追いついて、逆にウイナーへと変える。「冗談でしょ!?」 相手も思わず天を仰ぐ、試合の行方を決するスーパーショットだった。

 そうして迎えた、3本目のマッチポイント――

 ワイドへと放ったサービスは、一度は「イン」と判定され、大坂はファミリーボックスへと身体を翻し腕を天に突き上げる。だが、チャレンジコールに続き場内のモニターに映されたボールは、ラインの外側に落ちていた。

 大歓声が一斉に落胆のため息へと塗り替えられるが、大坂は一人、淡々とサービスラインへと向かう。セカンドサービスを打ち込み、相手のリターンを鋭角に叩き込むと、パブリチェンコワの返球は力なくネットに当たった。再び、ファミリーボックスに向けられた笑顔は、しばらく消えることはない。
 3度目の正直で手にした、東レパンパシフィックのタイトル――。それは今年1月の全豪オープン以来、8カ月ぶりに味わう頂点の空気だった。

 その全豪からの日々を、大坂は「多くのことを経験し、それらが今の私を形作っている」と明言する。確かに今大会での彼女は、この8カ月間に限らず、この数年間で直面してきた数々の課題に対し、ことごとく答えを明示した。

 6月の芝シーズンで連敗を喫した試合巧者のプチンツェワには、今大会の3回戦で完勝している。相手の緩急に慌てることもなく、長いラリー戦を打ち勝ち、相手を精神的に追い詰めた心理戦での勝利でもあった。
 
 1年前の同大会で彼女を疲弊させた周囲の目も、今大会ではさほど気にならなかったという。
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メンタルが課題と言われ続けてきた大坂に変化をもたらした要因とは…