2020年のスポーツ界におけるトピックスを『THE DIGEST』のヒット記事で振り返る当企画。今回は9月に行なわれた全仏オープンで、約1年1か月ぶりのグランドスラム勝利を挙げた錦織圭について。度重なる故障に苦しんだ今シーズン、30歳になった“日本のエース”が行なった「ちっちゃなマイナーチェンジ」とは?
記事初掲載:2020年9月28日
――◆――◆――
一体、何から書き始めれば良いのだろう――。
思わずそう自問してしまうほどに、複雑で多くの要素に満ちた、3時間49分におよぶ錦織圭の復帰後グランドスラム初勝利劇だった。
いや……試合を劇的なものにした因子の発芽は、試合開始前から始まっていたと言える。
地元の人々すら「例年より遥かに寒い」と震えるこの日のパリは、朝から霧雨舞い、空気は身を切るほどに冷たい。
時折吹きすさぶ突風は、雨に濡れた赤土すら、容赦なく巻き上げる。
開幕前から、ラファエル・ナダルをはじめ多くの選手が「ボールが遅く、重すぎる」と顔をしかめた今年のローランギャロスのコンディションは、一層その特性を深めた状態で、開幕の日を迎えていた。
過去3度対戦した同世代のダニエル・エバンスは、錦織にしてみれば、プレースタイルを十分に知った選手である。だがクレーでは初対戦に加え、寒くボールが跳ねにくいこの日の気象条件が、エバンスが放つスライスを一層やっかいなものにしていた。
立ち上がりで3本連続ショットをネットに掛け、磨きをかけてきたボレーもことごとくネットに阻まれたのは、それら複合的な要因に加え、錦織が「焦った」帰結だった。
4本のウイナーに対し、重ねたエラーは12本。1-6のスコアで、錦織は第1セットを失った。
ただ、わずか29分の第1セットが終わった時、錦織は「何が問題かはわかっていた」と明言する。
「彼のスライスに対し、焦ってウイナーを決めに行き過ぎた」というのが、その主因。そこで第2セット以降は、「我慢強くプレーすること」を自分に言い聞かせる。さらには試合が進むにつれ、徐々に相手のスライス、そして難解なコンディションにも適応していった。ストロークは深さを増し、錦織が打ち合いを支配する時間が増えていく。また、サーブ&ボレーなど相手の読みを外すプレーも織り交ぜはじめた。
こうなると、焦りを覚えるのはエバンスの方だ。第1セットでは効果的だったスライスも返され、明らかに苛立ちを募らせる。三度までもダブルフォールトでブレークを献上したエバンスに対し、サービスの安定感を増した錦織が、第2セットはお返しとばかりに6-1で奪い返した。
記事初掲載:2020年9月28日
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一体、何から書き始めれば良いのだろう――。
思わずそう自問してしまうほどに、複雑で多くの要素に満ちた、3時間49分におよぶ錦織圭の復帰後グランドスラム初勝利劇だった。
いや……試合を劇的なものにした因子の発芽は、試合開始前から始まっていたと言える。
地元の人々すら「例年より遥かに寒い」と震えるこの日のパリは、朝から霧雨舞い、空気は身を切るほどに冷たい。
時折吹きすさぶ突風は、雨に濡れた赤土すら、容赦なく巻き上げる。
開幕前から、ラファエル・ナダルをはじめ多くの選手が「ボールが遅く、重すぎる」と顔をしかめた今年のローランギャロスのコンディションは、一層その特性を深めた状態で、開幕の日を迎えていた。
過去3度対戦した同世代のダニエル・エバンスは、錦織にしてみれば、プレースタイルを十分に知った選手である。だがクレーでは初対戦に加え、寒くボールが跳ねにくいこの日の気象条件が、エバンスが放つスライスを一層やっかいなものにしていた。
立ち上がりで3本連続ショットをネットに掛け、磨きをかけてきたボレーもことごとくネットに阻まれたのは、それら複合的な要因に加え、錦織が「焦った」帰結だった。
4本のウイナーに対し、重ねたエラーは12本。1-6のスコアで、錦織は第1セットを失った。
ただ、わずか29分の第1セットが終わった時、錦織は「何が問題かはわかっていた」と明言する。
「彼のスライスに対し、焦ってウイナーを決めに行き過ぎた」というのが、その主因。そこで第2セット以降は、「我慢強くプレーすること」を自分に言い聞かせる。さらには試合が進むにつれ、徐々に相手のスライス、そして難解なコンディションにも適応していった。ストロークは深さを増し、錦織が打ち合いを支配する時間が増えていく。また、サーブ&ボレーなど相手の読みを外すプレーも織り交ぜはじめた。
こうなると、焦りを覚えるのはエバンスの方だ。第1セットでは効果的だったスライスも返され、明らかに苛立ちを募らせる。三度までもダブルフォールトでブレークを献上したエバンスに対し、サービスの安定感を増した錦織が、第2セットはお返しとばかりに6-1で奪い返した。