海外テニス

「最悪の敗北はやらずに無理と決めること」王者ジョコビッチが示す“挑戦”の重要性と心構え〈SMASH〉

中山和義

2021.04.11

努力の末に男子テニス界の頂点へと上りつめたジョコビッチの言葉には、仕事やプライベートでも役立つエキスがあふれている。(C)Getty Images

 テニス界で長きにわたりトップランキングを維持する一流選手たち。そんな彼らが発する言葉には、テニスの上達はもちろんだが、仕事やプライベートでも役立つヒントが数多く隠されている。

 現在男子テニス界で不動の地位を築きつつあるノバク・ジョコビッチ(セルビア)。今年の全豪では3連覇を達成し、3月には1位通算在位期間311週の新記録を樹立し、フェデラーの持つ310週を抜き単独トップに立った。まさに向かうところ敵なしであるが、今から10年ほど前は、強さを維持しながらも苦しんでいた。

 ジョコビッチはプロ選手になってから順調にランキングを上げてきたが、しばしばコートで喘息のように呼吸が苦しくなる症状に悩まされていた。せっかく厳しいトーナメントを勝ち上がってきたのに、試合の最中に棄権を余儀なくされることも数多くあった。彼はその原因を必死に探した。

「当時は毎日14時間、1日も休むことなくメンタルとフィジカルの向上のためにトレーニングをしていたよ」
 
 ジョコビッチは心と身体を徹底的に鍛えたが、その症状はどうしても改善されなかった。しかし2010年の全豪オープンが大きな転機になる。準々決勝でツォンガと対戦していた最中、またも息が苦しくなったジョコビッチは、フィナルセット、ダブルフォールトでサービスをブレークされ力尽きた――。このダブルフォールトについて彼は振り返る。

「プロ生活最低の瞬間が、実は一番幸運な瞬間になると、誰がわかっただろうね?」

 というのも、この不幸な試合をセルビア出身の栄養学者、チェトイェビッチ博士が偶然見ていたからだ。博士はその後、ジョコビッチに「不調の原因は食事にある」ことを伝え、栄養指導を行なうことになったのだ。

 博士はELISAというアレルギーを調べるテストを行ない、ジョコビッチの身体に悪影響を与えている食べ物を徹底的に調べた。その結果、小麦と乳製品が特に身体に問題があることがわかる。

 実家がピザ屋にもかかわらず、ジョコビッチは博士のアドバイスに従ってパンやチョコレートをはじめ、それらが含まれる食べ物を摂ることをやめた。するとその後、彼の身体は徐々に改善されていった。
 
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ジョコビッチが説く“最悪は敗北”とは…