海外テニス

大坂なおみはなぜ赤土の上で勝てないのか?「慣れ」「自信」がない背景とそれらの重要性

内田暁

2021.05.28

全仏での躍進が期待される大坂。苦手なクレーをどうやって克服するのか注目だ。(C)Getty Images

「次に勝つのは、クレーが良いな。だってそれが、先に来る大会だから」

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 そう言って彼女は、自分の言葉に小さくうなずく。約3か月前の、南半球のメルボルン。全豪オープンの銀杯を手にしたばかりの大坂に、気の早いメディアが「次に勝つグランドスラムは、クレー(赤土)か、それともグラス(芝)か?」とたずねたのだ。

 彼女がここで言う「クレー」とは、5月30日に開幕する全仏オープンのこと。すでに4つのグランドスラムタイトルを手にした大坂だが、その内訳は、全豪と全米オープンが二つずつ。いずれもハードコートであり、全仏とウィンブルドンは優勝が無い。

 そもそも彼女は、グランドスラムも含みツアーで7度優勝しているが、そのすべてがハードコート。クレーと芝では、まだ決勝に勝ち進んだこともないのが現状だ。

 ではなぜ、そこまで差がつくのか? もちろん、誰しもプレースタイルによる向き不向きや、育ってきた環境がある。ただ大坂の場合は、もっとも大きな要因は「慣れ」だと、本人やチームスタッフも声をそろえた。

「忘れてはいけないのは、なおみは、ジュニアのプレー経験がないことだ」と語気を強めるのは、コーチのウィム・フィセッテ氏である。
 

 テニスのジュニア・ツアーは18歳以下のカテゴリーとはいえ、フォーマットとしては、プロとさほど変わらない。年4回のグランドスラム・ジュニアを頂点とし、全仏の前にはクレー、そしてウィンブルドンの前には芝の大会が多く開催されている。つまりトップジュニアともなれば、十代前半から欧州のクレーや芝のコートを経験しているのだ。

 対して大坂は、14歳から大人とまじり、一般のツアーを主戦場とした。転戦範囲は、ほとんどが北中米。参戦大会も、ハードコートが中心だった。実際に大坂が、初めてヨーロッパの赤土を踏んだのは18歳の時。ジュニア・ツアーを経た他のトップ選手たちに比べれば、かなり遅いデビューである。

 プレーの適正という点では、フィセッテは「なおみの動きや、パワー、そしてポイントを組み立てる能力……それらを見れば、クレーで勝てない理由は何一つ見当たらない」と高く評する。そのうえでコーチがカギと見るのは、「自信」、そして「試合経験」。それらの重要性につきフィセッテは、かつて彼が指導した元世界1位のキム・クライシュテルスを例に挙げた。
 
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赤土は「簡単に気持ちが揺らいでしまうコートなんだ」