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【伊達公子】分析力や経験値をフル活用してテニス選手を導くツアーコーチ。日本でももっと増えてほしい<SMASH>

伊達公子

2021.11.19

大きなチームでシフト制にする方法を提案する伊達公子さん。写真:塚本凛平(THE DIGEST写真部)

 テニス選手の成長にしたがって、ツアーコーチの役割は変わっていきます。100位をなかなか切れない時期、グランドスラム本戦に安定して出られる時、ベテラン期のそれぞれの時期で、コーチはどのように選手をサポートしているのでしょうか。

 プロになってまず目指すのはグランドスラム本戦出場です。100位を切ることが目安ですが、100位の壁を越えるのは一番タフなことかもしれません。ここでもたつく選手は多くいます。選手の才能で抜け切ることができれば問題ありませんが、ちょっとエッセンスを加えてあげないといけない場合は、コーチの導きが大きく影響します。

 この時にコーチに求められるのは分析力です。何が足りないから足踏みをしているのか、何をしたら抜け出せるのか、分析して選手と話し合っていきます。大会の選び方、入り方などを考え直す必要も出てくるでしょう。

 これは勇気のいることです。選手の負担も大きいですし、もしかしたらランキングが下がる可能性もあります。それでも同じことを繰り返しているだけは、もたついた状態から抜け出ることはできません。

 こういう時期にコーチを変えることもあります。コーチが変わると、最初は誰でも新鮮味を感じるものです。同じことを言われても声が違ったり、言い方が違ったりして、意外にストンと入ってくることもあるので、時としてコーチ変更は刺激にもなります。

 苦しい時期を切り抜けて、グランドスラム本戦常連になったら、コーチに求められるのは経験です。選手は常に100%の状態でいられるわけではないので、ペース配分や練習、トレーニング量をうまく調節していかなくてはいけません。
 
 コーチはプッシュするよりも、ブレーキをかける場面が多くなります。そうすることで、精神的にもフィジカル的にも良い状態を保てて、良いパフォーマンスが出せることにつながるわけです。加えて、試合前には不安を取り除き、「大丈夫」と選手に思い込ませることができるかどうかも大切です。正しく状況を見極めて、選手を導くためには、経験が必要だと思います。

 ベテランになってきたら、選手のポジションやモチベーションによって対応も変わってくるでしょう。ただ、お互いが同じ方向を向いていないとうまくいかないので、話し合っておくことです。一番重要なことはケガをしないこと。選手経験が長くなると同じことをしがちですが、そういう時こそコーチがブレーキをかけて、新しいアイデアを提案できれば、キャリアがもっと長くなると思います。

 数回にわたってツアーコーチについて話してきましたが、日本にもツアーコーチがもっと育ってほしいです! 近年は賞金額も上がってきているのでコーチへの支払いもグローバルスタンダートになってきていると思いますが、ツアーコーチは割く時間も長いですしタフな職業です。例えば、ずっと同じコーチと遠征となると選手側も疲れることがあるので、大きなチームでシフト制にするという方法もいいかもしれません。

 今のところ、ツアーコーチをできる力がある人も、目指す人も少ないでしょう。でも、コートに立っていなくても、選手と一緒に戦っていけるというのは、相当な醍醐味だと思います。タフであることは間違いないですがそのぶん、夢がある職なので挑戦する人が増えて、ツアーコーチがもっと高く評価される日本テニス界であってほしいと思います。

文●伊達公子
撮影協力/株式会社SIXINCH.ジャパン

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