海外テニス

若き全米女王ラドゥカヌの有名コーチ招聘に「成長を妨げる危険性がある」とテニス界のレジェンドが警鐘「<SMASH>

中村光佑

2021.11.28

若くして全米を制したラドゥカヌ(左)が優勝請負人ともいえるコーチを招聘したことに対して、かつての名手ビランデル(左)は批判的だ。(C)Getty Images

 今年9月の全米オープンで18歳にしてグランドスラム初優勝を成し遂げた女子テニス界の新鋭、エマ・ラドゥカヌ(イギリス/世界ランク19位)。そんな彼女は同大会閉幕後にアンドリュー・リチャードソンとの短期コーチ契約を終了させ、その後は正式な指導者がいない状態で試合へと臨んでいたが、11月初旬にようやく新コーチをチームに迎え入れた。

 10月のBNPパリバ・オープンや今季最終戦となったオーストリアのリンツ・オープンで初戦敗退を喫するなど、全米決勝以降は目立った成績を残せなかったラドゥカヌ。周囲の期待とは裏腹に厳しい現実に直面していた中、「経験豊富なコーチ」を求めていた彼女は元世界1位のアンジェリーク・ケルバー(ドイツ/現16位)を2016年全豪と全米で優勝へと導いたトーベン・ベルツ(ドイツ/44歳) と正式にコーチ契約を結んだ。

 若くしてグランドスラムを制したとはいえ、まだまだツアーでの経験が浅いラドゥカヌがベルツのような実績あるコーチに師事することはメリットが大きいように思えるかもしれない。

 ところが四大大会7勝を誇り、現在は欧米スポーツメディア『EUROSPORT』でテニスコメンテーターを務めるマッツ・ビランデル氏は「私の感覚では、18歳というフレッシュでハツラツとした時期に、経験豊富なコーチを雇うことは不要だと思う」として、ラドゥカヌのベルツ採用に批判的な見方を示しているのだ。
 
 その理由についてビランデル氏は「私たちは、そういった若い選手たちが成長し続けるのを見届けてから、彼らを型にはめていく。そうしないと、エマ(ラドゥカヌ)が偉大な選手になるための成長を妨げてしまう危険性が大きい」と説明。さらに同氏は「若い選手は自分の思うようにプレーし、そこで自分の良さを実感し、若いからこその自信の浮き沈みを経験する必要がある」とも主張した上で、以下のように続けた。

「若者は自分のペースで成長しなければならない。彼女(ラドゥカヌ)の場合、彼女の頭の中にいくつもの声が届くことは良いことではないと思っている。彼女が聞くべき声は自分の声だけだ。実際彼女はもうグランドスラムを制覇しているし、そこでの勝ち方だって知っている。彼女には楽しみが必要で、コートの中でも外でも自分のやりたいことをさせてあげるべきだ。そして、彼女は外から強制されるのではなく、自分自身で成長する必要がある」

 確かにビランデル氏の言葉通り、ラドゥカヌのようにフレッシュで自信に満ちた若い選手が勢いで駆け上がっていくケースが多いことは事実だ。だが、ベルツを招聘した背景には何らかの考えがあるのだろう。何はともあれ、女子テニス界に衝撃を与えたシンデレラガールの更なる活躍を期待したいところだ。

文●中村光佑

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