海外テニス

【雑草プロの世界転戦記6】地域に根付いたヨーロッパのクラブリーグ。そこから生まれる“人の輪”がチームを支える<SMASH>

市川誠一郎

2022.10.05

コートに隣接したレストランやカフェで、会員や選手の友人たちが優雅に試合を観戦する。ヨーロッパのテニスクラブに根付いた文化となっている。左上は市川選手。写真提供:市川誠一郎

 25歳でテニスを始め、32歳でプロになった市川誠一郎選手は、夢を追って海外のITF大会に挑み続ける。雑草プレーヤーが知られざる下部ツアーの実情を綴る転戦記。

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 今回は前回に引き続き、夏にヨーロッパ各国で開催される「クラブリーグ」について書きたいと思います。

 僕がプレーするドイツのクラブリーグは、サッカーと同様に上の2つが「ブンデスリーガ」と呼ばれ、その次が「レグナーリーガ」と呼ばれています。さらにその次は州ごとに行なわれるリーグです。

 仕組みは日本のリーグと大きく変わりませんが、企業チームか、地域に根付いたクラブチームかという違いがあります。この違いが実は非常に大きなものです。

 そして、トップリーグでなくても上から5つ目くらいのリーグまでは、主力選手に給料が支払われるのが一般的です。このあたりのリーグではITFツアーに出場する選手がプレーしており、それほどランキングが高くなくても収入を得られる場になっています。

 ブンデスリーガになるとグランドスラムに出場する選手まで参加しており、場合によっては主力の給料は1試合100万円以上になります。レグナーリーガくらいでも、選手は1試合で500ユーロ程度(約7万円)の給料をもらいますね。

 例えば僕が練習のため滞在していたレグナーリーガのクラブでは、世界ランキング400位くらいの選手2人、150位の選手1人と契約していました。彼らは重要な試合を中心に呼ばれてきます。

 ドイツ人ではない助っ人外国人がたくさんいて、彼らは毎週末飛行機に乗ってクラブマッチをプレーしに来るのです。選手によっては何か国ものリーグと契約している人もいます。
 
 そのクラブでレグナーリーガの試合が行なわれました。3番目のリーグだけあって2面には審判が入っていました。また、オンコートにコーチが1人入れるのは団体戦ならではです。

 クラブ会員さん、選手の家族、友達らを中心に100人くらいの人が来ていて、コートを見下ろせるレストランや日陰の芝生から観戦します。ヨーロッパでは週末には家族で公園の芝生でのんびり過ごすような文化があり、その延長線で、こうしてテニスクラブに来て選手の試合を観戦、応援するのです。これがヨーロッパのテニスクラブの文化です。

 どのクラブも、試合を見ることを前提にレストランや芝生、スペース、コート配置がデザインされています。必ず素敵なオープンテラスのレストランやカフェがあります。これも日本のクラブとの大きな違いです。100人くらいのローカルな規模ですが、こうしてテニスクラブ、クラブマッチを中心に人の輪が生まれていきます。

 試合を見にくる富裕層の会員さんや、地域の企業が小規模ながらスポンサーとなり、助っ人選手を雇う資金を獲得しています。彼らは自分たちのクラブを強くすることにモチベーションや誇りを感じていたり、税金対策としてスポンサーになることもあると聞きます。

 まさしく地域に根付いたリーグです。小さな規模のローカルビジネスですが、こうした文化が脈々と受け継がれてきたからこそ、ヨーロッパのテニスリーグは生き生きしているのでしょう。

文●市川誠一郎

〈PROFILE〉
1984年生まれ。開成高、東大を卒業後ゼロからテニスを始め、32歳でプロ活動スタート。36歳からヨーロッパに移り、各地を放浪しながらITFツアーに挑んでいる。Amebaトップブロガー「夢中に生きる」配信中。ケイズハウス/HCA法律事務所所属。

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