海外テニス

キリオスがウインブルドンで退場させた“泥酔客”との名誉棄損訴訟で和解。暴言を謝罪して賠償金は寄付<SMASH>

中村光佑

2022.11.06

プレーの邪魔だとして女性客を退場させたキリオス。結局はキリオスの方が発言の誤りを認め、矛を収めることとなった。(C)Getty Images

 今年7月のウインブルドンで主審を介してある観客の退場を求め、その観客から名誉棄損で訴えられたことが報じられた男子テニス世界ランク22位のニック・キリオス(オーストラリア)。彼はイギリス・ロンドンの法律事務所「Knight Temple Law」を通じて声明文をリリースし、謝罪の意向を表明すると同時に、2万ポンド(約333万円)の損害賠償金を人道支援のチャリティーに寄付したと報告した。

 事の発端はキリオスがノバク・ジョコビッチ(セルビア/大会時6位)と対戦して敗れたウインブルドン男子シングルス決勝での一幕だった。キリオスは第3セット途中で「俺がサービスを打つ時に女性の観客が邪魔をしてくる」と主審に猛抗議。

 その際に「彼女は気が狂いそうなほど酔っていて、700杯の酒を飲んでいるように見える」とも言い放ち、その女性を観客席から退場させるよう求めた。母親と一緒に観戦していた女性はキリオスの抗議に応える形で一度はセンターコートから退出したが、最終的には客席に戻ることを許可されたという。

 その後ポーランド出身で普段は医療弁護士として活動するこの女性は「実際にはお酒を2杯しか飲んでいなかったが、この日は気温が高かったため行き過ぎた応援をしてしまった」と釈明しつつ、現地8月23日にイギリスの法律事務所「Brett Wilson LLP」を通じて公式声明文を発表。
 
「ウインブルドン決勝の最中に、ニック・キリオス氏が放った全く根拠のない言葉が私に大きな損害と苦痛を与えました。私は自分の汚名を晴らすために名誉棄損の訴訟を起こすための法的手続きを進めています」とした上で「得られた損害賠償金は人道支援チャリティーに寄付します」とも述べていた。

 この一件については約4か月にわたって特にコメントを出していなかったキリオスだったが、今回の声明文では「私がアンナ・パルス氏という名前であることを知った観客が試合中に酔っていると思い、彼女が私を邪魔していると審判に話しました」と改めて当時の状況を説明し、「私はその行為が間違っていたことを認め、謝罪したいと思います」と謝意を示した。

 また損害賠償金についても言及し、「償いをするために、パルス氏が指定したグレート・オーモンド・ストリート病院(イギリス最古の小児病院)の慈善団体に2万ポンドを寄付しました」と明かしている。

 最後は「この騒動については今後コメントすることはもうありません」と断言し、全文を締めくくったキリオス。これにてオーストラリア日刊紙『The Age』は「ウインブルドンを観戦していたファンのキリオスに対する訴訟は和解が成立した」と報じている。

文●中村光佑

【PHOTO】キリオスはじめウインブルドン2022で活躍した男子選手たち