苦難を乗り越えた「悲劇のヒロイン」のタイトル獲得に喝采が送られている。

　テニスの四大大会「全仏オープン」混合ダブルス決勝が現地６月８日に行なわれ、加藤未唯／ティム・プッツ（ドイツ）組が4－6、6－4、10－6（マッチタイブレーク）で、ビアンカ・アンドレースク（カナダ）／マイケル・ビーナス（ニュージーランド）組を下し、初優勝を飾った。

　勝利の瞬間、加藤は両腕を突き上げ、パートナーのプッツと喜びを分かち合った。そして優勝スピーチでは涙ぐみながら「ここまではチャレンジングな日々でした。精神的にも、特にここ数日は大変でした。女子のダブルスから色んなことがありました」と振り返った。

　加藤は現地４日の女子ダブルス３回戦で自身が打った球がボールガールを直撃。少女は痛みとショックで涙が止まらなくなった。加藤はすぐさま彼女の元に歩み寄り謝罪し、主審は加藤に警告を言い渡して試合再開。かと思われたが、裁定が甘いとばかりに対戦ペアのマリー・ボウズコワ（チェコ）／サラ・ソリベストルモ（スペイン）組が主審に猛抗議。「彼女は泣いているじゃない！」「血が出ているわ。よく見て」と詰め寄った。

　やがて、大会のスーパーバイザーとレフェリーが登場して協議を重ねた結果、「危険行為」として加藤組に失格処分が下り、試合終了。加藤には賞金とポイントの剥奪という手厳しいペナルティが科され、28歳の日本人はどん底に叩き落とされた。それでも混合ダブルスでは気持ちを切り替えて快進撃を見せると、一気に頂点まで駆け上げった。

　スピーチで加藤はコーチや関係者に感謝を述べると、「ボールガールが無事であることを願っています」と言った後、女子ダブルスで対戦した相手にも言及。「サラとマリエとも、また良い試合をしたいと願っています。失格は残念でしたが、いい結果が出て、（自身の）ポイントが戻ることを願っています」と処分の取り消しをあらためて訴えると、観客からは万雷の拍手が注がれた。
  　名誉を挽回した日本人の活躍に海外記者も賛辞を贈っている。米テニス専門誌『Tennis Magazine』のスティーブ・ティグナー記者は「ミユ・カトウが、混合ダブルス決勝で素晴らしいプレーを見せ、失格の汚名を返上した。誇らしいことだ！」と綴り、「カトウとティム・プッツは、まるで運命に導かれるようにメジャー初優勝を果たした」と紆余曲折の末、悲願の初タイトルを掴んだ日本人のサクセスストーリーを称えた。

　一方で同記者は、女子ダブルスで加藤の失格を促した対戦ペアを「非常に腹立たしいカップルだ」と一刀両断した。同じく米スポーツ専門メディア『Sportskeeda』でテニス記事を寄稿するハレシュ・ラムチャンダニ氏は加藤の優勝スピーチをツイッターで共有すると、「もしこれが、マドリッド・オープンだったら、ミユ・カトウのスピーチはどれくらいの人に響くのだろうか」と、女子ダブルスで失格を促したペアのひとりであるソリベストルモへの皮肉を綴っている。

　加藤の失格問題は波紋が広がり、いまだ収束する気配は見えない。プロテニス選手協会（PTPA）は現地６日、加藤組の失格について「不当で不公平なものだった」と声明を発表。「少なくともミユの賞金とランキングポイントは回復されるべきだ」と求めている。

構成●THE DIGEST編集部

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