ロシア・ベラルーシによるウクライナ侵攻の収束が未だ見えない中、かねてからテニス界は侵攻国出身選手に対する積極的な除外措置を講じない姿勢を示してきた。これに以前から不快感をあらわにしてきたのが、ウクライナ国籍で女子世界46位のレシア・ツレンコ(34歳)だ。
彼女は卑劣な侵略で母国が悲惨な状況に陥っていることに精神的ショックを受けており、今年3月の「BNPパリバ・オープン」ではベラルーシ国籍のアリーナ・サバレンカ(現2位)と対戦するはずだった3回戦を「パニック発作」を理由として棄権した。
その後ウクライナのテニスメディア『BTU』のインタビューで、ツレンコはパニック発作が出た理由を「ウクライナ侵攻に関する会談でWTA(女子テニス協会)会長のスティーブ・サイモン氏から告げられた言葉にショックを受けた」からと説明。その言葉の内容についてこう明かしていた。
「サイモン氏自身は戦争を支持しないとのことだったが、ロシアやベラルーシの選手が紛争を支持しているのであれば、それはあくまで彼ら自身の意見であり、あなたが他人の意見に動揺してはいけないと言われた」
事実サイモン氏は軍事攻撃を辞さない構えを見せ続けるロシアとベラルーシを非難しており、以前には「ウクライナ侵攻はどのような形でも支持されるべきではない」と述べていた。
だがその言葉とは裏腹にWTAは「大会には全ての国の選手を平等に参加させる」というテニス界の基本原則に則る形で、侵攻国出身選手のツアー出場を認めている。そのためツレンコはWTAの反戦表明が形だけのものであり、結局は利益重視なのではないかと疑念を抱いているわけだ。
彼女は先日応じた『BTU』の取材でWTAを次のように痛烈に批判していた。
「インディアンウェルズで私はパニック発作に襲われ、大会を棄権せざるを得なかった。私はその後、個人的に公の場で苦情を申し立てたけど、WTAの人たちは私にコンタクトを取ろうとはしなかった。これは私がパニック発作で棄権したという事実をWTAが隠ぺいしようとしたことを示しており、サイモン氏の倫理観の欠如を明確に反映している。私が置かれた状況を彼らが軽視していたことが私の混乱を招き、ある意味で恐怖を与えた」
またツレンコは自身のコーチを務めるミキタ・ウラソフ氏もサイモン氏に不信感を抱いているとコメント。「最近私のコーチが会談でサイモン氏が私に放った言葉について調査を開始した」と言う。
ところがあろうことかWTAはウラソフ氏に対して、必要以上に詮索しないよう命じる手紙を送ってきたというのだ。そうした事実を踏まえツレンコは再びWTAをこう糾弾した。
「WTAは私の擁護を表明した唯一の人物(ウラソフ氏)に何らかの処分を科すことを決定した。彼らは私たちに圧力をかけようとしている。彼らがこのような策略を使っていること、そして連盟のトップが、自分が発した言葉の責任を逃れようとしていることが信じられない」
テニス界でも様々な軋轢を生んでいるロシアのウクライナ侵攻。以前のような平穏な日々が戻ってくるのはいつになるのだろうか。
文●中村光佑
【PHOTO】34歳でベスト16入りしたツレンコをはじめ、全仏オープン2023で活躍した女子選手たち
彼女は卑劣な侵略で母国が悲惨な状況に陥っていることに精神的ショックを受けており、今年3月の「BNPパリバ・オープン」ではベラルーシ国籍のアリーナ・サバレンカ(現2位)と対戦するはずだった3回戦を「パニック発作」を理由として棄権した。
その後ウクライナのテニスメディア『BTU』のインタビューで、ツレンコはパニック発作が出た理由を「ウクライナ侵攻に関する会談でWTA(女子テニス協会)会長のスティーブ・サイモン氏から告げられた言葉にショックを受けた」からと説明。その言葉の内容についてこう明かしていた。
「サイモン氏自身は戦争を支持しないとのことだったが、ロシアやベラルーシの選手が紛争を支持しているのであれば、それはあくまで彼ら自身の意見であり、あなたが他人の意見に動揺してはいけないと言われた」
事実サイモン氏は軍事攻撃を辞さない構えを見せ続けるロシアとベラルーシを非難しており、以前には「ウクライナ侵攻はどのような形でも支持されるべきではない」と述べていた。
だがその言葉とは裏腹にWTAは「大会には全ての国の選手を平等に参加させる」というテニス界の基本原則に則る形で、侵攻国出身選手のツアー出場を認めている。そのためツレンコはWTAの反戦表明が形だけのものであり、結局は利益重視なのではないかと疑念を抱いているわけだ。
彼女は先日応じた『BTU』の取材でWTAを次のように痛烈に批判していた。
「インディアンウェルズで私はパニック発作に襲われ、大会を棄権せざるを得なかった。私はその後、個人的に公の場で苦情を申し立てたけど、WTAの人たちは私にコンタクトを取ろうとはしなかった。これは私がパニック発作で棄権したという事実をWTAが隠ぺいしようとしたことを示しており、サイモン氏の倫理観の欠如を明確に反映している。私が置かれた状況を彼らが軽視していたことが私の混乱を招き、ある意味で恐怖を与えた」
またツレンコは自身のコーチを務めるミキタ・ウラソフ氏もサイモン氏に不信感を抱いているとコメント。「最近私のコーチが会談でサイモン氏が私に放った言葉について調査を開始した」と言う。
ところがあろうことかWTAはウラソフ氏に対して、必要以上に詮索しないよう命じる手紙を送ってきたというのだ。そうした事実を踏まえツレンコは再びWTAをこう糾弾した。
「WTAは私の擁護を表明した唯一の人物(ウラソフ氏)に何らかの処分を科すことを決定した。彼らは私たちに圧力をかけようとしている。彼らがこのような策略を使っていること、そして連盟のトップが、自分が発した言葉の責任を逃れようとしていることが信じられない」
テニス界でも様々な軋轢を生んでいるロシアのウクライナ侵攻。以前のような平穏な日々が戻ってくるのはいつになるのだろうか。
文●中村光佑
【PHOTO】34歳でベスト16入りしたツレンコをはじめ、全仏オープン2023で活躍した女子選手たち