ワイドに鋭く刺さるサービスを追いながら、彼女は、苦笑いを浮かべていた。
「やられたぁ」という心の声が聞こえてくるような、悔しさと達成感が入り混じる、なんとも趣き深い表情である。
長く日本女子テニスのフロントランナーだった土居美咲は、この9月に、日本で開催されるツアー2大会を最後に引退する。その一つ目の大会、「木下グループジャパンオープンテニスチャンピオンシップス」での戦いは、初戦のアリアネ・ハルトノ戦、2-6、6-3、3-6で終幕した。
世界最高位30位の土居が、自身のソーシャルメディアで引退を正式表明したのは8月。腰の痛みのため、思うようなパフォーマンスを継続的にできないがゆえの決断だった。159㎝の小柄な身体を目いっぱい用い、飛び跳ね、左腕を振り抜き、自身より一回りも二回りも大柄な選手の懐に切り込むように戦うのが土居のテニス。その爽快な攻撃テニスの完遂は、自らの身体を削るようなプロセスだったのかもしれない。
約3か月ぶりに立つ実戦の舞台で、土居はポイント間にもしゃがみ込み、屈伸をくり返すなど、腰に痛みを覚えていることは明らかだった。その幹部をかばうためか、あるいは試合勘の欠如ゆえか、序盤は「フォアの調子があまり良くなかった」と後に振り返る。
それでも、自身を鼓舞するように「よしっ!」と声を出して立ち上がり、ラケットを構え、ボールを追った。ウイナーを決めれば「カモン!」と鋭く叫び、ミスショットには、「なんでー!」と悔しそうに天を仰く。一ポイントも、一球も疎かにしたくないという意志が、コート上の姿からほとばしっていた。
第1セットを失った後の第2セットでは、明らかに配球も、そしてフォアの当たりも良くなっていく。第2セットは、互いにブレークを奪い合う精神戦の中、相手にプレッシャーをかけてミスも誘った。最後のゲームでも相手のブレークポイントに直面するが、センターとワイドに打ち分けるサービスで窮状を切り抜けた。
第3セットは、序盤に相手にブレークで先行され、常に追いかける展開。その後もブレークの危機を迎えるが、追い込まれた時ほどに武器であるフォアを信じた。第8ゲームではデュースの場面から、攻めに攻めて決めた逆クロスのウイナー。続くポイントでも相手を左右に振り回し、浮き球をスイングボレーで叩き込む。土居美咲のテニスを、コートいっぱいに描いた。
夕刻から夜へと空が移ろうなか、十分に見せ場は作った、2時間6分の接戦。それでも試合後の会見では、反省の弁が並ぶ。
「チャンスがあっただけに、悔しいな」、「最近試合していなかったので、やはり対応しきれていない、反応やキレが悪い」
キャリアを通じ幾度も繰り返した会見の席に座ると、感傷より先に冷静な分析が立つのは、アスリートの性だろうか。
「試合が終わると、普通に試合を振り返っちゃいますね。これができていなかった、次はこうしよう……って」
苦笑と共に、後にそんな言葉を残した。
その悔いを次に生かす機会は、まだ一大会、残されている。9月24日開幕の東レパンパシフィックオープンでは、予選からの出場。それが、真のラストダンスの舞台となる。
その最後の一ポイントを終えた時、彼女はどんな表情を浮かべるのか? 長く日本女子テニスを牽引した左腕の、最後の雄姿を多くの人々に目にしていただきたい。
取材・文●内田暁
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「やられたぁ」という心の声が聞こえてくるような、悔しさと達成感が入り混じる、なんとも趣き深い表情である。
長く日本女子テニスのフロントランナーだった土居美咲は、この9月に、日本で開催されるツアー2大会を最後に引退する。その一つ目の大会、「木下グループジャパンオープンテニスチャンピオンシップス」での戦いは、初戦のアリアネ・ハルトノ戦、2-6、6-3、3-6で終幕した。
世界最高位30位の土居が、自身のソーシャルメディアで引退を正式表明したのは8月。腰の痛みのため、思うようなパフォーマンスを継続的にできないがゆえの決断だった。159㎝の小柄な身体を目いっぱい用い、飛び跳ね、左腕を振り抜き、自身より一回りも二回りも大柄な選手の懐に切り込むように戦うのが土居のテニス。その爽快な攻撃テニスの完遂は、自らの身体を削るようなプロセスだったのかもしれない。
約3か月ぶりに立つ実戦の舞台で、土居はポイント間にもしゃがみ込み、屈伸をくり返すなど、腰に痛みを覚えていることは明らかだった。その幹部をかばうためか、あるいは試合勘の欠如ゆえか、序盤は「フォアの調子があまり良くなかった」と後に振り返る。
それでも、自身を鼓舞するように「よしっ!」と声を出して立ち上がり、ラケットを構え、ボールを追った。ウイナーを決めれば「カモン!」と鋭く叫び、ミスショットには、「なんでー!」と悔しそうに天を仰く。一ポイントも、一球も疎かにしたくないという意志が、コート上の姿からほとばしっていた。
第1セットを失った後の第2セットでは、明らかに配球も、そしてフォアの当たりも良くなっていく。第2セットは、互いにブレークを奪い合う精神戦の中、相手にプレッシャーをかけてミスも誘った。最後のゲームでも相手のブレークポイントに直面するが、センターとワイドに打ち分けるサービスで窮状を切り抜けた。
第3セットは、序盤に相手にブレークで先行され、常に追いかける展開。その後もブレークの危機を迎えるが、追い込まれた時ほどに武器であるフォアを信じた。第8ゲームではデュースの場面から、攻めに攻めて決めた逆クロスのウイナー。続くポイントでも相手を左右に振り回し、浮き球をスイングボレーで叩き込む。土居美咲のテニスを、コートいっぱいに描いた。
夕刻から夜へと空が移ろうなか、十分に見せ場は作った、2時間6分の接戦。それでも試合後の会見では、反省の弁が並ぶ。
「チャンスがあっただけに、悔しいな」、「最近試合していなかったので、やはり対応しきれていない、反応やキレが悪い」
キャリアを通じ幾度も繰り返した会見の席に座ると、感傷より先に冷静な分析が立つのは、アスリートの性だろうか。
「試合が終わると、普通に試合を振り返っちゃいますね。これができていなかった、次はこうしよう……って」
苦笑と共に、後にそんな言葉を残した。
その悔いを次に生かす機会は、まだ一大会、残されている。9月24日開幕の東レパンパシフィックオープンでは、予選からの出場。それが、真のラストダンスの舞台となる。
その最後の一ポイントを終えた時、彼女はどんな表情を浮かべるのか? 長く日本女子テニスを牽引した左腕の、最後の雄姿を多くの人々に目にしていただきたい。
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