海外テニス

【雑草プロの世界転戦記16】ヨーロッパを拠点にする意義は、世界基準の視点と圧倒的な実戦経験を得られること<SMASH>

市川誠一郎

2023.11.12

ヨーロッパでは近距離で多くのITFワールドツアーが開催されており、経験できる試合の数が日本などとは比較にならない。写真はスペイン・ビトリア-ガステイスのW100大会。(C)Getty Images

 25歳でテニスを始め、32歳でプロになった市川誠一郎選手は、夢を追って海外のITF大会に挑み続ける。雑草プレーヤーが知られざる下部ツアーの実情を綴る転戦記。

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 ヨーロッパでテニスをすることの最大の意義は、世界基準の視点を持てることです。

 日本のテニスの技術レベルは高く、ヨーロッパの選手に日本人選手の印象を聞けば、「日本人はショット技術が高い」「ミスしない」「よく走る」「いつも安定したプレーをする」といった答えが返ってきます。その通りですが、やや世界のテニスから隔絶されていることは否定できない事実です。

 テニスはヨーロッパで生まれたスポーツであり、テニス競技の中心はヨーロッパです。中国に行かないで中華料理を理解することができないように、ヨーロッパに行かないでテニスを知ることはできないと僕は考えています。

 より多くの選手が世界に出て、広い視点を持つことで、日本人選手の強さはより磨かれていくように思います。

 日本ではプロの国際大会であるITFツアーですら、出場選手の大半は日本人で、外国人選手は2、3人ということすらあります。また、アジアの大会は概ねそうした傾向があります。

 それに対して、ヨーロッパでは国内大会、ジュニア大会でも常に各国の選手が入り混じって出場しています。それぞれの国が、飛行機ならすぐ、車でも移動できるほどの距離にあるため、魅力的なテニス環境を求めて各国の選手が集まってくるのです。普段の練習でも日常的に各国の選手と練習する環境が当たり前にあります。
 
 そして、何より大会数が全く違います。ヨーロッパでは日本とは比べものにならないほど近い距離で国際大会が開催され、また国内大会も多数あるので、年間を通して相当数の大会に出場できます。プロ選手でも毎度海を越えて遠征に出なければいけない日本人選手とは、全体的にかなり出場試合数が違ってくるわけです。

 ヨーロッパのプロであれば、年間40週以上の国際大会に出場する選手もいます。そもそもアジアにはそれほどの国際大会が開催されていない上、移動距離も長く、それほどの大会数をこなすことは困難です。

 ヨーロッパの選手が練習でうまく見えなくても試合で強いのは、圧倒的な実戦経験の量の違いが要因だと思います。

 より多くの試合に出場できることは、ヨーロッパに拠点を移す大きな利点の1つと言えるでしょう。

文●市川誠一郎

〈PROFILE〉
1984年生まれ。開成高、東大を卒業後ゼロからテニスを始め、32歳でプロ活動開始。36歳からヨーロッパに移り、各地を放浪しながらITFツアーに挑んでいる。2023年5月、初のATPポイントをダブルスで獲得。Amebaトップブロガー「夢中に生きる」配信中。ケイズハウス/HCA法律事務所所属。

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