大会開幕を2日後に控え、多くのトッププレーヤーたちが会見に応じる“メディアデー”の昼下がり――。
メインインタビュールームに集まった記者の数が、関心の高さを物語った。会見時間が迫っている選手は、2度の全豪オープン優勝者の大坂なおみ。昨年のこの時期に妊娠を公にし、2週間前のブリスベン国際で1年3カ月ぶりにコートに帰還した元世界1位の登場を、各国のプレスが待ちわびた。
開始予定時間を少々回り、会見室に姿を現した大坂は、少し疲れているように見えた。それでも、質問者の中に見慣れた顔を見つけるたび、目じりを下げて「ハイ」「久しぶり」と、柔らかな声を上げる。向けられる内容は、テニスの調子から子育て体験までと幅広い。その一つひとつに大坂は、質問の意味を咀嚼するように小さくうなずき、時に答えを探すように視線を虚空に漂わせながら、丁寧に言葉を紡いだ。
ブリスベンでの試合後は、思っていたよりは筋肉痛や疲労感が残らなかったこと。
全豪オープン会場に足を踏み入れた時は、ノスタルジーに胸が満たされたこと。
会場ではトップ選手たちと練習を重ね、リターンとバックハンドの向上に留意していること。
そして、「ツアーからしばし離脱していたことで、良かったと感じることはあるか」との問いには、しばし視線を落とし、言葉の真意が相手に伝わっているか確かめながら、こう応じた。
「私はこれまでにも、何度も休養を取ってきたけれど、今回ようやく、私の中で何かが嚙み合ったと感じている。アスリートにとって、時間がいかに貴重なものかに気が付くことができた。以前の私は若く、いつでも元の場所に戻れると思っていた。でもシャイ(第一子)を産んだ後は、求める状態に戻ることが、いかに大変かを感じている。
今の私は、以前よりもはるかにポジティブで、周囲に感謝の気持ちを抱いている。去年の全豪オープンに出られなかったことを思うと、今はとにかく、ここにいられることがうれしいの」
出産とラケットを握らぬ日々を経た今は、「身体の状態は、以前と同じというわけにはいかない」とも認める。ただその詳細に関しては、「フィットネストレーナーに尋ねた方が、良い答えが得られると思う」と笑って交わした。
なお、彼女のフィットネストレーナーのフロリアン・ジツェルスバーグ氏は、昨年11月、米国人記者のデビッド・ケイン氏の取材に対し、次のように答えている。
「ナオミは素晴らしい攻撃力の持ち主ですが、ここ10年ほどのテニス界では、守備の重要性が増しています。攻守の切り替えが非常に大切になっているのです。
ナオミが再び最高のパフォーマンスを発揮するため、まず取り組んだのは、運動連鎖を安定させること。特に腹部の筋力は、産後に落ちるのが一般的ですから」
全豪会場で身体を動かす大坂は、トレーナーの言葉に耳を傾け指導に従おうとするも、思うように動かぬ自分の身体に、苦笑いを浮かべることもある。
自他ともに認める身体の変化は、アスリートとしての時間の有限性を大坂に告げ、その悟りに似た認識は、今この時を慈しむ心持ちにつながるのだろう。
初戦の対戦相手は、世界20位のカロリーヌ・ガルシア(フランス)。まごうことなきトッププレーヤーではあるが、大坂は「試合を通じ、自分のプレーができるのではと思う」との予感を胸に、2年ぶりにグランドスラムのコートに向かう。
現地取材・文●内田暁
※大坂の初戦は現地15日のナイトセッションに予定されている
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【PHOTO】大坂なおみのサービス、ハイスピードカメラによる『30コマの超分解写真』
【関連記事】大坂なおみ、全豪オープン開幕前に手応え!「今年はグランドスラムで勝てると思っている」<SMASH>
メインインタビュールームに集まった記者の数が、関心の高さを物語った。会見時間が迫っている選手は、2度の全豪オープン優勝者の大坂なおみ。昨年のこの時期に妊娠を公にし、2週間前のブリスベン国際で1年3カ月ぶりにコートに帰還した元世界1位の登場を、各国のプレスが待ちわびた。
開始予定時間を少々回り、会見室に姿を現した大坂は、少し疲れているように見えた。それでも、質問者の中に見慣れた顔を見つけるたび、目じりを下げて「ハイ」「久しぶり」と、柔らかな声を上げる。向けられる内容は、テニスの調子から子育て体験までと幅広い。その一つひとつに大坂は、質問の意味を咀嚼するように小さくうなずき、時に答えを探すように視線を虚空に漂わせながら、丁寧に言葉を紡いだ。
ブリスベンでの試合後は、思っていたよりは筋肉痛や疲労感が残らなかったこと。
全豪オープン会場に足を踏み入れた時は、ノスタルジーに胸が満たされたこと。
会場ではトップ選手たちと練習を重ね、リターンとバックハンドの向上に留意していること。
そして、「ツアーからしばし離脱していたことで、良かったと感じることはあるか」との問いには、しばし視線を落とし、言葉の真意が相手に伝わっているか確かめながら、こう応じた。
「私はこれまでにも、何度も休養を取ってきたけれど、今回ようやく、私の中で何かが嚙み合ったと感じている。アスリートにとって、時間がいかに貴重なものかに気が付くことができた。以前の私は若く、いつでも元の場所に戻れると思っていた。でもシャイ(第一子)を産んだ後は、求める状態に戻ることが、いかに大変かを感じている。
今の私は、以前よりもはるかにポジティブで、周囲に感謝の気持ちを抱いている。去年の全豪オープンに出られなかったことを思うと、今はとにかく、ここにいられることがうれしいの」
出産とラケットを握らぬ日々を経た今は、「身体の状態は、以前と同じというわけにはいかない」とも認める。ただその詳細に関しては、「フィットネストレーナーに尋ねた方が、良い答えが得られると思う」と笑って交わした。
なお、彼女のフィットネストレーナーのフロリアン・ジツェルスバーグ氏は、昨年11月、米国人記者のデビッド・ケイン氏の取材に対し、次のように答えている。
「ナオミは素晴らしい攻撃力の持ち主ですが、ここ10年ほどのテニス界では、守備の重要性が増しています。攻守の切り替えが非常に大切になっているのです。
ナオミが再び最高のパフォーマンスを発揮するため、まず取り組んだのは、運動連鎖を安定させること。特に腹部の筋力は、産後に落ちるのが一般的ですから」
全豪会場で身体を動かす大坂は、トレーナーの言葉に耳を傾け指導に従おうとするも、思うように動かぬ自分の身体に、苦笑いを浮かべることもある。
自他ともに認める身体の変化は、アスリートとしての時間の有限性を大坂に告げ、その悟りに似た認識は、今この時を慈しむ心持ちにつながるのだろう。
初戦の対戦相手は、世界20位のカロリーヌ・ガルシア(フランス)。まごうことなきトッププレーヤーではあるが、大坂は「試合を通じ、自分のプレーができるのではと思う」との予感を胸に、2年ぶりにグランドスラムのコートに向かう。
現地取材・文●内田暁
※大坂の初戦は現地15日のナイトセッションに予定されている
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