会見室に大坂なおみが姿を現したのは、試合を終えセンターコートを離れてから、約30分後のことだった。それはいつもの彼女のルーティーンに比べれば、異例なほどに早い。
理由を探るヒントは、会見のなかで明らかになる。
テニスツアー「BNPパリバ・オープン」開催地の米インディアンウェルズは、彼女の住むロサンゼルスから車で2~3時間の距離。そこで今大会の大坂は、生後8カ月の愛娘を滞在先に連れてきたのだ。
子どもがいることで、日々のルーティーンは変わったか――?
そう問われた大坂は、「もちろん家を出る前は、可能な限り多くの時間を子どもと過ごしている」とほほ笑み、こう続ける。
「でも彼女は、とっても規則正しい赤ちゃんだから、離れていても、何をしているのかわかるのよね。例えば今は……」
そう言い手首の時計をのぞき込み、弾けるような笑みを広げて言った。
「ちょうど、そろそろ食事の時間なの! 部屋に戻るのが待ち遠しいわ!」
娘の食事に間に合うように戻りたい――恐らくはそれが、いつもより早い会見の理由だ。
コートを離れれば早くも母親の顔を見せる大坂だが、コートに立っている時は、本人曰く「常時アスリート」。頭を占めるのはテニスのみで、目指すはひたすら勝利のみだ。
その思考面で言えば、初戦は難しい試合となる。相手のサラ・エラーニ(イタリア)は、元世界5位の36歳。ランキングこそ100位に落としてはいるが、いかにもクレー育ちといった試合巧者っぷりと、粘り強さは健在だ。
何より、滞空時間の長いエラーニのショットは、復帰後の大坂が複数回対戦してきたカロリーヌ・ガルシア(フランス)やカロリーナ・プリスコワ(チェコ)たちの強打と大きく異なる。
「正直、どのようにプレーすれば良いか戸惑った。彼女と打ち合いチャンスを待つのか、それとも即座に自ら決めにいくべきか。その答えを見つけるのに時間が掛かり、それが第1セットで競った理由だと思う」
そのような述懐通り、試合序盤の大坂は、相手を力でねじ伏せようとしては、ショットがラインを割るシーンが目立った。風の影響もあったか、ダブルフォールトも多い。早々にブレークを許し、追う展開となった。
それでも追いつき逆転まで持ち込めるのは、復帰後わずか3カ月の彼女が、既に高い適応力と、地力を取り戻したからに他ならない。追いつ追われつの展開のなか、リターンウィナーを叩き込み第8ゲームをブレークすると、そのまま第1セットを6-3で先取した。
第2セットに入った時には、「落ち着き、自分のプレーに集中できるようになった」と振り返るほどに、大坂が試合を支配する。最終スコアは、6-3、6-1。課題としていたフットワークについても、「前後に揺さぶられても良く動けていた」と自信を滲ます。
「(2週間前の)ドーハと比べれば、大きな前進」と、己に厳しい彼女が自身に及第点を与えた。
大会開幕前、「今大会では私の中で、母親とアスリートのエネルギーが融合している。それが良い方向に向かえば」との希望的見解を口にしていた大坂。
その予兆実現の気配を存分に漂わせ、6年前の優勝者が、力強く、なおかつしなやかに好スタートを切った。
現地取材・文●内田暁
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理由を探るヒントは、会見のなかで明らかになる。
テニスツアー「BNPパリバ・オープン」開催地の米インディアンウェルズは、彼女の住むロサンゼルスから車で2~3時間の距離。そこで今大会の大坂は、生後8カ月の愛娘を滞在先に連れてきたのだ。
子どもがいることで、日々のルーティーンは変わったか――?
そう問われた大坂は、「もちろん家を出る前は、可能な限り多くの時間を子どもと過ごしている」とほほ笑み、こう続ける。
「でも彼女は、とっても規則正しい赤ちゃんだから、離れていても、何をしているのかわかるのよね。例えば今は……」
そう言い手首の時計をのぞき込み、弾けるような笑みを広げて言った。
「ちょうど、そろそろ食事の時間なの! 部屋に戻るのが待ち遠しいわ!」
娘の食事に間に合うように戻りたい――恐らくはそれが、いつもより早い会見の理由だ。
コートを離れれば早くも母親の顔を見せる大坂だが、コートに立っている時は、本人曰く「常時アスリート」。頭を占めるのはテニスのみで、目指すはひたすら勝利のみだ。
その思考面で言えば、初戦は難しい試合となる。相手のサラ・エラーニ(イタリア)は、元世界5位の36歳。ランキングこそ100位に落としてはいるが、いかにもクレー育ちといった試合巧者っぷりと、粘り強さは健在だ。
何より、滞空時間の長いエラーニのショットは、復帰後の大坂が複数回対戦してきたカロリーヌ・ガルシア(フランス)やカロリーナ・プリスコワ(チェコ)たちの強打と大きく異なる。
「正直、どのようにプレーすれば良いか戸惑った。彼女と打ち合いチャンスを待つのか、それとも即座に自ら決めにいくべきか。その答えを見つけるのに時間が掛かり、それが第1セットで競った理由だと思う」
そのような述懐通り、試合序盤の大坂は、相手を力でねじ伏せようとしては、ショットがラインを割るシーンが目立った。風の影響もあったか、ダブルフォールトも多い。早々にブレークを許し、追う展開となった。
それでも追いつき逆転まで持ち込めるのは、復帰後わずか3カ月の彼女が、既に高い適応力と、地力を取り戻したからに他ならない。追いつ追われつの展開のなか、リターンウィナーを叩き込み第8ゲームをブレークすると、そのまま第1セットを6-3で先取した。
第2セットに入った時には、「落ち着き、自分のプレーに集中できるようになった」と振り返るほどに、大坂が試合を支配する。最終スコアは、6-3、6-1。課題としていたフットワークについても、「前後に揺さぶられても良く動けていた」と自信を滲ます。
「(2週間前の)ドーハと比べれば、大きな前進」と、己に厳しい彼女が自身に及第点を与えた。
大会開幕前、「今大会では私の中で、母親とアスリートのエネルギーが融合している。それが良い方向に向かえば」との希望的見解を口にしていた大坂。
その予兆実現の気配を存分に漂わせ、6年前の優勝者が、力強く、なおかつしなやかに好スタートを切った。
現地取材・文●内田暁
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