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【プロの観戦眼32】自分のやりたいことよりも相手の嫌がるところを突ける16歳、アンドレーワ~宮崎靖雄<SMASH>

渡辺隆康(スマッシュ編集部)

2024.03.09

アンドレーワが得意とするバックのカウンター。走りながら早いタイミングでストレートに切り返している。自在にタイミングを変えられるのが彼女の強みだ。右下は宮崎靖雄プロ。写真:真野博正、滝川敏之

 このシリーズでは、多くのテニスの試合を見ているプロや解説者に、「この選手のここがスゴイ!」という着眼点を教えてもらう。試合観戦をより楽しむためのヒントにしてほしい。

 第32回は、日本ランク最高17位で、引退後は国内トップの学生やジュニアを多く育てている宮崎靖雄氏に話を聞いた。宮崎氏が推すのは、弱冠16歳にしてトップ40の壁を破ったアンドレーワだ。

 2023年はITFツアーからスタートしながら、全仏で予選を勝ち上がり3回戦、ウインブルドンでも予選からベスト16入りし、度肝を抜いた。現在100位内で最年少のプレーヤーで、宮崎氏は「これから絶対に来る」と太鼓判を押す。

 ただし、近年の女子の若手というと破壊力抜群のハードヒットで押しまくるのが定番だが、宮崎氏が彼女に惹かれるのはそこではなく、「状況判断がすごくいい」からだ。「アンドレーワは空間をうまく使えるし、相手を見ながら作戦を立てられる。相手にとって打ちにくいところを突くんです」

 最近の10代女子にはそういうタイプは少なく、大抵は「自分のやりたいことをやる」だけで、強打一辺倒になる。ところがアンドレーワは「自分のやりたいことよりも相手の嫌がることを突き止めてプレーする戦術家。いわば〝ヒンギスのスピード版〟ですよ」と宮崎氏は説明してくれた。
 
 ヒンギスと言えば変幻自在の配球で相手を翻弄した天才型選手だが、アンドレーワはそれプラス強力な決め球も持っている。

「彼女はコートの真ん中を意図的に有効利用できるのが類まれなところで、真ん中にムーンボールやスライスを入れて、相手に強打させない。自分が苦しい時はそうやって時間を作りながら、勝負どころでは急に少しタイミングを早めて叩くんです。特にストレートへのバックのカウンターは絶品。伝家の宝刀ですね」

 コースや球種のみならず、タイミングの変化も戦術として使えるのがアンドレーワなのだ。それがまだ16歳だと考えると、これからどこまで強くなるのか末恐ろしくなる。宮崎氏が「絶対に来る」と断言するのもうなずけるところだ。24年シーズン、ぜひ注目してほしいホープだ。

◆Mirra Andreeva/ミラ・アンドレーワ(ロシア)
2007年4月29日生まれ。171cm、右利き、両手BH。6歳からテニスを始め、22年にプロ転向。23年には共に予選から全仏3回戦、ウインブルドン16強に進出し脚光を浴びる。年頭には293位だったランキングを11月には46位までジャンプアップさせた。今季も全豪で16強入りするなど好調で、2月には自己最高の33位をマークしている。姉のエリカもテニス選手。

取材・文●渡辺隆康(スマッシュ編集部)
※『スマッシュ』2024年2月号を再編集

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