海外テニス

大坂はチームに打ち解け、日比野は「有明をやっと好きになれた」…日本に勝利を呼び込んだ選手たちの一体感【BJK杯総括】<SMASH>

内田暁

2024.04.14

まさに一丸となってカザフスタンを下したBJK杯日本代表チーム。皆が胸の内を素直に明かし合えるようになった。写真:田中研治(THE DIGEST写真部)

 ガラガラに枯れた杉山愛監督の声が、この2日間の激闘を、そして日本代表チームが放った熱を物語っていた。

 女子テニス国別対抗戦「ビリー・ジーン・キング・カップ(BJK杯)」のファイナル予選、日本対カザフスタン戦。日本が通算3勝1敗で勝利し、11月に開催されるテニス界のワールドカップこと「BJK杯ファイナルズ」の出場権を獲得した。

 振り返れば杉山ジャパンの戦いは、1年半前に有明コロシアムで開催された、日本対ウクライナ戦から始まっていた。客席もまばらな重苦しい空気のなか、日本はウクライナの闘志に押されるように敗退。翌23年シーズンからの監督就任が決まっていた杉山は、その空間に身を置きながら、「こんな寂しい中で、選手たちに試合をさせるわけにはいかない!」との想いに身を震わせた。

 そして23年、アジア・オセアニア予選という「どん底」からのスタートとなった杉山ジャパンの戦いは、予選を突破し、有明コロシアムでのプレーオフ、対コロンビア戦の勝利を経て、このカザフスタン戦へと連なる。

 今回、日本代表のジャージに身を包んだのは、先のコロンビア戦では悔しい敗戦を喫した日比野菜緒に、予選ラウンド突破の主戦力となった本玉真唯。"最後の砦"として控えるのは、青山修子と柴原瑛菜のダブルスペア。そしてシングルス2に座すのは、昨年7月の出産を経て今季よりツアー復帰を果たした、大坂なおみ。大坂の日本代表参戦は、3年ぶりのことである。

 久々に袖を通す代表ジャージに、1年半ぶりに立つ有明コロシアムのコート。それにもかかわらず、大坂がチームに打ち解けている様子は、開幕前日のチーム会見からもうかがえた。
 
 日本語の質問を解する大坂が英語で返答し、隣に座るカリフォルニア育ちの柴原瑛菜に、「エナが通訳して!」と懇願する。質問を聞き逃した大坂に、杉山監督が英語で伝える場面もあった。「シュウコのプレーを見るのが楽しみ」と笑顔を向けた青山修子は、7年前に代表に初選出された大坂を、「グランパジョーク(親父ギャグ)」で笑わせ受け入れてくれたよく知る顏。柔らかな闘志と、チームの一体感が感じられる光景だった。

 迎えた初日――。金曜日の14時という時間帯にもかかわらず、有明コロシアムには4,000人を超える観客が詰め掛けた。客席の至る所ではためく日の丸を見ながら、大坂は柴原に「もし負けちゃったら、普段のツアー以上に落ちこんじゃうだろうな」と胸の内を打ち明けたという。

 チームの先陣を切ってコートに立ったのは、シングルス1の大役を担う日比野菜緒。対戦相手はダブルス巧者ではあるが、シングルスランキングは900位台のアンナ・ダニリナ。ただでさえ緊張する開幕試合に加え、「勝って当然」と見られる状況を、日比野は「正直、すごく嫌だった」と明かす。

 そんな日比野に「次にみんなが控えている。思いっきりやってきてください!」と声を掛けたのは、今回は控えに回る本玉真唯。5カ月前のコロンビア戦では先陣を担い、日比野に「私は初戦好きなので、任せてください」と宣言した若手の成長株だ。

 その本玉のエールに送り出された日比野は、相手に1ゲームしか与えぬ完勝を収める。杉山監督も「120点満点」と絶賛するエースのプレーが、チームに勢いを与えた。
 
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杉山監督との意思疎通で勝利した大坂。絶体絶命のピンチから逆転した日比野