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「全ては上達のためのプロセスだから」大坂なおみがシフィオンテクに敗れてなお自分を誇りに思う理由【全仏オープン】<SMASH>

内田暁

2024.05.31

復帰した大坂なおみが最も強化に力を注いだのがリターンだ。シフィオンテク戦では大胆にフォアに回り込むリターンで再三プレッシャーをかけた。(C)Getty Images

 イガ・シフィオンテク対大坂なおみ――。

 全仏オープンテニス2回戦で実現したこのカードは、恐らくは早期に実現する顔合わせの中で、ファンや関係者たちが最も心待ちにした試合の一つだったろう。
 
 だが実際にはどれだけの人が、大坂の勝利の可能性を信じただろうか? シフィオンテクは、全仏オープン2連覇中の女王。しかも今年は、マドリード、そしてローマの前哨戦2大会を制し、連勝街道を疾走したままパリに凱旋してきたのだ。

 対する大坂は昨年7月の出産を経て、今年1月に復帰したばかり。戦うたびに調子を上げているのは間違いないが、それでも、現女王には届かないというのが、大方の見解だったろう。

 もちろん、「勝てると心から信じて、試合に向かった」と明言する、大坂本人を除いては……。

 いずれもグランドスラム4度の優勝を誇る新旧女王の、過去の戦績は1勝1敗。初対戦は2019年夏のカナダで、当時は大坂が大会第2シード。シフィオンテクは、大坂を「セレブ!」と仰ぎ見る18歳だった。

 2度目は、22年3月マイアミ・オープンの決勝戦。その時点で既に世界1位が確定していた新女王は、大坂を6-4、6-0で圧倒した。

 それから2年。アスリートにとっての2年は、多くを変えるのに十分な年月だろう。

 シフィオンテクは昨シーズン末に、サービスの改善に集中的に取り組んできた。「技術面を変えたことで、スピードが上がった。同時に打てる球種が増えたことで、配球も良くなった」

 本人がそう自信を深めるサービスの向上は、確かに速度という最もわかりやすい形で顕在化する。今大会の初戦では、最速191キロを記録。試合を通しても、平均177キロの高い数字を保った。
 
 対する大坂が、産後から復帰に向け、最も強化に力を入れたのがリターンである。

 以前の大坂は、足を前後に広げて構え、走るように相手サービスへと向かっていた。それが今は、両足を肩幅ほどに広げ、小刻みにスプリットステップを踏みながらポジションを微調整する。

 大坂いわく、お手本は「ジョコビッチ」。言わずとしれた男子世界1位にして、リターンの名手だ。

「知り合いのバイオメカニクス(生体力学)の専門家にも相談し、なおみのリターンの動きを分析してもった」と明かすコーチのウィム・フィセッテ氏は、改良の眼目を「スプリットステップをしっかり踏むことで、反応を早めること」にあると言った。

 反応が早まれば、リターンポジションを上げて打ち返し、相手の時間を奪うことができる。それが復帰以来、大坂が磨いてきたリターンだ。

 第1セットは両者の新たな武器が鍔迫り合いを繰り広げ、シフィオンテクがタイブレークを制し7-6で先取。

 だが第2セットでは、大坂がシフィオンテクのサービスを捕らえた。時にベースラインの1メートルほど内側に立って構え、世界1位に圧力をかける。それ以上に効果的だったのが、バックサイドに来るサービスのコースを読み切り、フォアに回って叩き込むリターン。
 
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