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海外テニス

【プロの観戦眼34】足は激しく動いても上半身は揺れない。スキーで培われたシナーの身体バランスの強さ~石井弘樹<SMASH>

渡辺隆康(スマッシュ編集部)

2024.09.01

走らされながらリバース系のスイングでカウンターを打ったシナー。苦しい状況でも軸は真っすぐに保たれており(4コマ目)、それゆえ即座にリカバリーできる(7)。右下は石井弘樹プロ。写真:真野博正、THE DIGEST写真部

走らされながらリバース系のスイングでカウンターを打ったシナー。苦しい状況でも軸は真っすぐに保たれており(4コマ目)、それゆえ即座にリカバリーできる(7)。右下は石井弘樹プロ。写真:真野博正、THE DIGEST写真部

 このシリーズでは、多くのテニスの試合を見ているプロや解説者に、「この選手のこのショット」がすごいという着眼点を教えてもらう。試合観戦をより楽しむためのヒントにしてほしい。

 第34回は、元全日本ダブルス王者で、今はプロやトップジュニアを教える石井弘樹氏に話を聞いた。石井氏が推すのは、現在世界ランキング1位に君臨するヤニック・シナーだ。とりわけ「カウンターショット」の技量は、ジョコビッチと並んでトッププロの中でも突出したレベルだと称賛する。

「シナーは左右に動かされた時の切り返しがエグイですよ。体勢が崩れず、バランスが取れているから、ショットの質が高いのはもちろん戻りも速い」と石井氏。だから相手はいいショットを打ってもなかなか決め切れない。

「動きがいいシナーは、カウンターを3回くらい連続して打てます。つまり相手のエース級の決め球を3回返せるということです」。本来なら1発で決まっているショットを3回以上打たなくてはいけないのだから、相手にとっては大きなストレスだ。ミスのリスクもそれだけ増えるわけである。

 加えて、シナーのカウンターは角度もある。「相手が振ってきても、それを上回る角度で返球できます。それもバランスの良さに起因するでしょう」とのこと。
 
 石井氏は、シナーのその身体バランスは幼少期にスキーをしていたことが下地になっていると推測する。「足は激しく動いていても、上体が全く揺れないんです。これはまさしくスキーで培われる技能でしょう。足を踏ん張りながら上体はリラックスしているので、鋭いスイングができるし、打ってすぐ戻れるんです」

 こうした身体の使い方のうまさは、他のトッププロとは一線を画すと石井氏は言う。

「現代の選手は“力”で押すのが主流です。その中にあってシナーは“タイミング”と“バランス”が抜群に良く、それで相手のパワーと勝負できます。特にバランスは際立っていますね」

 他の選手にはない希少な能力を武器にするシナー。彼の試合を見る時は、単純な力比べとは違ったテニスの面白みを味わってほしい。

◆Jannik Sinner/ヤニック・シナー(イタリア)
2001年8月16日生まれ。188cm、76kg、右利き、両手BH。少年期はスキー選手としても有望で、13歳からテニスに専念。18年にプロ転向し、翌年には18歳でネクストジェンに優勝。23年にカナダ・マスターズを制覇、今年は全豪OP、マイアミOPなどビッグタイトルを獲得し、ついに世界ランク1位に! ツアー通算15勝。

取材・文●渡辺隆康(スマッシュ編集部)
※『スマッシュ』2024年7月号より再編集

【連続写真】軸がブレないシナーのフォアハンドのカウンターショット「30コマの超連続写真」

【画像】ヤニック・シナーが悲願の全豪オープン優勝!3時間44分にも及んだメドベージェフとの熱戦を厳選ショットでプレイバック!

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