国内テニス

日本テニス界をけん引した伊藤竜馬が18年にわたる現役生活に幕!「お客さんの声援が無ければ勝てなかった」<SMASH>

内田暁

2024.10.13

全日本選手権を最後に現役から退いた伊藤竜馬が試合を終えた翌日、錦織圭をはじめ盟友たちが引退セレモニーに駆けつけた。写真:金子拓弥(THE DIGEST写真部)

「夢のような1週間でした。お客さんの声援が無ければ、勝てなかった。幸せでした」

 18年にわたるプロ生活のラストマッチ——。10月12日に行なわれた全日本テニス選手権準決勝で、磯村志に1-6、2-6で敗れた伊藤竜馬は、コート上のインタビューで、万感を込め客席の人々に感謝の言葉を述べた。

 自陣営の席には、妻や長男、姉や御両親ら、多くの親族・友人たちの姿がある。

 3回戦の日には、昨年引退した土居美咲さんが、客席から大きな拍手を送った。

 準々決勝では奈良くるみさん、さらには、ケガのため一旦帰国した西岡良仁も、兄たちと共に客席から大きな声援を送る

「チーム三重ですからね!」

 同郷の後輩は、伊藤の勝利に、心から湧き上がるような笑みをこぼしていた。

 現役最後の大会に選んだ全日本選手権で、伊藤は、初戦から薄氷を踏む勝利を重ねてきた。1回戦では、相手のサービングフォーザマッチを凌いで、逆転勝利。3回戦も同様に、ファイナルセットでのブレークダウンから、剣が峰で踏ん張り巻き返した。

「まだまだ、できるんじゃない?」

 周囲のそんな声に、本人も「引退、撤回しちゃう!?」とおどけた声で返して破顔する。
 
「初戦からタフマッチだったので身体もボロボロになるかと思ったら、意外と筋肉痛も無くて」

 準々決勝後の会見でもそう言って、いつもの人懐っこい笑顔をこぼしていた。だが実際には初戦後から、ヒザの痛みは限界に達していたようだ。

「試合前には、痛み止めを2本打っていた」と初めて明かしたのは、ラストマッチ後の会見の席である。

 準決勝の磯村戦では、ヒザの痛みは誰の目にも明らかだった。それでも最後までコートに立ち、時おり、意地のフォアハンドの強打でウイナーを奪う。

 一方の磯村も、やり辛い状況ながら、エースを奪うたびに吠え、全力で勝利をつかみ取りにいく。大会序盤から「生きの良い若手とやりたい」と公言していた伊藤にしてみれば、伸び盛りの21歳との対戦は、望んだキャリアの幕引きだったかもしれない。

「彼は、最後の相手に相応しかった。気のいいプレーヤーなので、本当に彼が最後で良かったし、これからも応援していきたい選手」

 伊藤は納得の表情で、磯村にエールも送った。
 
NEXT
PAGE
伊藤が選手として大成できた理由は「人との出会い」だった