25歳でテニスを始め、32歳でプロになった市川誠一郎選手は、夢を追って海外のITF(国際テニス連盟)大会に挑み続ける。雑草プレーヤーが知られざる下部ツアーの実情や、ヨーロッパのテニス環境を綴る転戦記。
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これまでこのコラムでは、ヨーロッパのテニス環境やテニスアカデミーの状況などを紹介してきました。では実際にヨーロッパでは選手に対してどんな指導やトレーニングが施されているのでしょうか。今回からしばらくはそのことについて書いていきたいと思います。
ヨーロッパの大会を回っていると、かなり個性的な打ち方をする選手に結構出会います。とてもクセが強いフォームだったり、初心者みたいな打ち方だったり...。でも、どことなくギクシャクした動きをしている選手が、実はすごく強い世界ランカーだった、なんてことがよくあります。
打ち方は滅茶苦茶なのに、なぜか力強いボールがコートに入ってくる。世界のトップを見ても、メドベージェフやナダルをはじめ、超個性的な打ち方で世界の頂点にまで上り詰めた選手がいるでしょう。
こうした選手が生まれる背景には、指導の違いがあります。ヨーロッパでは「形」を教えない、シンプルな指導スタイルが主流なのです。
日本人の一般的な文化として、型をすごく重視する傾向があります。テニスで言えばフォームを「正しい形」に持っていく指導をしがちです。
習う側も、特に一般愛好家の方は、形を気にする傾向が非常に強いです。周りにどう見えているかを気にしたり、キレイに打ちたい、そうでなければダメ、という気持ちが根付いているように感じます。
日本の指導はとても細かく、テイクバックはこう、ヒジや手首はこうして、スタンスはこう...と事細かに教えていくのです。「そんな打ち方ではダメだよ」と形への意識を植え込むアドバイスも耳にします。コーチたちは正しいフォームを身に付けるためのマニアックな練習メニュー、指導法、理論を追求していった結果、本来の目的から離れすぎているのではないでしょうか。
細部にこだわることは日本人的な職人気質かもしれません。これがすごく役立つこともありますが、特に対人競技であるテニスの本質は、「打ち方」よりも「どこにどんなボールを打つか」という部分です。狙ったボールを打てるようになるためのフォームであったはずなのに、正しいフォームを追求しすぎて肝心の本質を失ってしまうのです。
対称的に、ヨーロッパにおける指導は本当にシンプルなことが多いです。基本的にはどんな打ち方だろうが、「いいボールがいいコースに飛んでいればオーケー」という考え方です。たとえ納得した当たりでなくても、力強いボールがコート深くに入っている事実こそを大切にします。
ヨーロッパの指導法や考え方について、次回からもっと詳しく述べていきましょう。
文●市川誠一郎
〈PROFILE〉
1984年生まれ。開成高、東大を卒業後ゼロからテニスを始め、32歳でプロ活動開始。36歳からヨーロッパに移り、各地を放浪しながらITFツアーに挑んでいる。2023年5月、初のATPポイントをダブルスで獲得。Amebaトップブロガー「夢中に生きる」配信中。ケイズハウス/HCA法律事務所所属。
【画像】雑草プロの世界転戦記・ヨーロッパのテニスアカデミーでの日常風景
【画像】雑草プロの世界転戦記・ヨーロッパ各国の下部ツアーの風景
【画像】雑草プロの世界転戦記・ヨーロッパのジュニア大会情景集
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これまでこのコラムでは、ヨーロッパのテニス環境やテニスアカデミーの状況などを紹介してきました。では実際にヨーロッパでは選手に対してどんな指導やトレーニングが施されているのでしょうか。今回からしばらくはそのことについて書いていきたいと思います。
ヨーロッパの大会を回っていると、かなり個性的な打ち方をする選手に結構出会います。とてもクセが強いフォームだったり、初心者みたいな打ち方だったり...。でも、どことなくギクシャクした動きをしている選手が、実はすごく強い世界ランカーだった、なんてことがよくあります。
打ち方は滅茶苦茶なのに、なぜか力強いボールがコートに入ってくる。世界のトップを見ても、メドベージェフやナダルをはじめ、超個性的な打ち方で世界の頂点にまで上り詰めた選手がいるでしょう。
こうした選手が生まれる背景には、指導の違いがあります。ヨーロッパでは「形」を教えない、シンプルな指導スタイルが主流なのです。
日本人の一般的な文化として、型をすごく重視する傾向があります。テニスで言えばフォームを「正しい形」に持っていく指導をしがちです。
習う側も、特に一般愛好家の方は、形を気にする傾向が非常に強いです。周りにどう見えているかを気にしたり、キレイに打ちたい、そうでなければダメ、という気持ちが根付いているように感じます。
日本の指導はとても細かく、テイクバックはこう、ヒジや手首はこうして、スタンスはこう...と事細かに教えていくのです。「そんな打ち方ではダメだよ」と形への意識を植え込むアドバイスも耳にします。コーチたちは正しいフォームを身に付けるためのマニアックな練習メニュー、指導法、理論を追求していった結果、本来の目的から離れすぎているのではないでしょうか。
細部にこだわることは日本人的な職人気質かもしれません。これがすごく役立つこともありますが、特に対人競技であるテニスの本質は、「打ち方」よりも「どこにどんなボールを打つか」という部分です。狙ったボールを打てるようになるためのフォームであったはずなのに、正しいフォームを追求しすぎて肝心の本質を失ってしまうのです。
対称的に、ヨーロッパにおける指導は本当にシンプルなことが多いです。基本的にはどんな打ち方だろうが、「いいボールがいいコースに飛んでいればオーケー」という考え方です。たとえ納得した当たりでなくても、力強いボールがコート深くに入っている事実こそを大切にします。
ヨーロッパの指導法や考え方について、次回からもっと詳しく述べていきましょう。
文●市川誠一郎
〈PROFILE〉
1984年生まれ。開成高、東大を卒業後ゼロからテニスを始め、32歳でプロ活動開始。36歳からヨーロッパに移り、各地を放浪しながらITFツアーに挑んでいる。2023年5月、初のATPポイントをダブルスで獲得。Amebaトップブロガー「夢中に生きる」配信中。ケイズハウス/HCA法律事務所所属。
【画像】雑草プロの世界転戦記・ヨーロッパのテニスアカデミーでの日常風景
【画像】雑草プロの世界転戦記・ヨーロッパ各国の下部ツアーの風景
【画像】雑草プロの世界転戦記・ヨーロッパのジュニア大会情景集