「正直、どうやって勝ったかわからない」
試合直後のオンコートインタビューで、そして勝利から30分ほど経った記者会見でも、彼女は同じ言葉を繰り返した。
女子テニスの国別対抗戦「ビリー・ジーン・キング・カップ」ファイナル予選の、日本対ルーマニア戦。日本のシングルス最高位選手としてコートに立ち、相手国のエース、アンカ・トドニから大逆転勝利を手にした、内島萌夏の言葉である。
試合開始直後から、成長著しいルーマニアの20歳に苦しめられた。来日直前までクレーコート大会に出ていたトドニだが、球足の速い有明コロシアムでは、「早いタイミングでボールを捉え、下がらずどんどん前に入っていくことを心掛けた」という。その強打が、ことごとくライン際を鋭利に捉えた。後手に回った内島は第1セットを3-6で失い、第2セットも2つのブレークを許しゲームカウント1-4に。敗戦濃厚の空気が、有明コロシアムを満たした。
実際にこの時まで内島には、相手が崩れる気配すら感じられなかったという。それでも彼女は、全てのボールに食らい付くことを、やめなかった。
「正直、それしかやれることがなかった。監督とも『食らい付いていくしかないよね』と話していた」
後に内島が、そう明かす。
その決意を象徴するプレーが、この1-4のゲームで飛び出した。強打に押され浮いた内島の返球を、トドニが長身を利してオープンコートに叩き込む。普通なら、決められたと諦める局面だ。それでも内島はフェンスぎりぎりまでボールを追い、必死に手を伸ばし、ラケットの先で引っ掛けるようにかろうじて打ち返した。結果的にはこのボールを決められて、ポイントはトドニの手に。ただ、想定より2球、3球と多く返ってくるボールは、確実に相手にプレッシャーを掛けただろう。
果たしてこの直後から、明らかに空気が変わった。続くポイントでトドニはショットをネットに掛け、最後はダブルフォールトで内島にブレークを献上する。
「そこまでチャンスはありながらもブレークできなかったのが、やっとできた。あそこから相手にプレッシャーも掛けられたので、ターニングポイントだったかなと思います」
内島が振り返る、この試合の分水嶺。その後、連続ブレークで追いつくもブレークを許し、2度のマッチポイントにも追い詰められた。
ただこの局面でも内島は、「マッチポイントだとはあまり考えなかった。どんなポイントだったかも良く覚えていない」と言うほどに、集中できていたという。それは、「私は2本のマッチポイントをはっきり覚えている。特に1本目では、素晴らしいリターンウイナーを決められた」と苦く笑う対戦相手とは対照的。最終的にマッチポイントを凌ぎ、タイブレークの末に第2セットを内島が奪い返した時点で、試合の趨勢は決したろう。第3セットは、6-2で内島が力強くつかみ取る。それは日本の勝利を決する、殊勲の白星でもあった。
日本チームを率いて3年目になる杉山愛監督は、「彼女(内島)の成長をあの試合で見ることができたのが、何よりうれしい」と相好を崩す。杉山が監督に就任したばかりの頃の内島は、「団体戦が苦手」とこぼし、実際に試合では「持てる力の20%も出せていない」と監督の目にも映った。それがここ最近は、練習に打ち込む姿にも明確な変化が見られるという。
「試合の中で、自分で問題を解決する力がついた。2年前と今の彼女は別人と言ってもいいくらい成長してくれて、私も彼女に頼っています」
この2年間、期待するからこそ時に厳しい目も向けてきた。その指揮官の確信に満ちた言葉と表情こそが、内島の進化を何より端的に物語っていた。
取材・文●内田暁
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試合直後のオンコートインタビューで、そして勝利から30分ほど経った記者会見でも、彼女は同じ言葉を繰り返した。
女子テニスの国別対抗戦「ビリー・ジーン・キング・カップ」ファイナル予選の、日本対ルーマニア戦。日本のシングルス最高位選手としてコートに立ち、相手国のエース、アンカ・トドニから大逆転勝利を手にした、内島萌夏の言葉である。
試合開始直後から、成長著しいルーマニアの20歳に苦しめられた。来日直前までクレーコート大会に出ていたトドニだが、球足の速い有明コロシアムでは、「早いタイミングでボールを捉え、下がらずどんどん前に入っていくことを心掛けた」という。その強打が、ことごとくライン際を鋭利に捉えた。後手に回った内島は第1セットを3-6で失い、第2セットも2つのブレークを許しゲームカウント1-4に。敗戦濃厚の空気が、有明コロシアムを満たした。
実際にこの時まで内島には、相手が崩れる気配すら感じられなかったという。それでも彼女は、全てのボールに食らい付くことを、やめなかった。
「正直、それしかやれることがなかった。監督とも『食らい付いていくしかないよね』と話していた」
後に内島が、そう明かす。
その決意を象徴するプレーが、この1-4のゲームで飛び出した。強打に押され浮いた内島の返球を、トドニが長身を利してオープンコートに叩き込む。普通なら、決められたと諦める局面だ。それでも内島はフェンスぎりぎりまでボールを追い、必死に手を伸ばし、ラケットの先で引っ掛けるようにかろうじて打ち返した。結果的にはこのボールを決められて、ポイントはトドニの手に。ただ、想定より2球、3球と多く返ってくるボールは、確実に相手にプレッシャーを掛けただろう。
果たしてこの直後から、明らかに空気が変わった。続くポイントでトドニはショットをネットに掛け、最後はダブルフォールトで内島にブレークを献上する。
「そこまでチャンスはありながらもブレークできなかったのが、やっとできた。あそこから相手にプレッシャーも掛けられたので、ターニングポイントだったかなと思います」
内島が振り返る、この試合の分水嶺。その後、連続ブレークで追いつくもブレークを許し、2度のマッチポイントにも追い詰められた。
ただこの局面でも内島は、「マッチポイントだとはあまり考えなかった。どんなポイントだったかも良く覚えていない」と言うほどに、集中できていたという。それは、「私は2本のマッチポイントをはっきり覚えている。特に1本目では、素晴らしいリターンウイナーを決められた」と苦く笑う対戦相手とは対照的。最終的にマッチポイントを凌ぎ、タイブレークの末に第2セットを内島が奪い返した時点で、試合の趨勢は決したろう。第3セットは、6-2で内島が力強くつかみ取る。それは日本の勝利を決する、殊勲の白星でもあった。
日本チームを率いて3年目になる杉山愛監督は、「彼女(内島)の成長をあの試合で見ることができたのが、何よりうれしい」と相好を崩す。杉山が監督に就任したばかりの頃の内島は、「団体戦が苦手」とこぼし、実際に試合では「持てる力の20%も出せていない」と監督の目にも映った。それがここ最近は、練習に打ち込む姿にも明確な変化が見られるという。
「試合の中で、自分で問題を解決する力がついた。2年前と今の彼女は別人と言ってもいいくらい成長してくれて、私も彼女に頼っています」
この2年間、期待するからこそ時に厳しい目も向けてきた。その指揮官の確信に満ちた言葉と表情こそが、内島の進化を何より端的に物語っていた。
取材・文●内田暁
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