もしこのゲームを落とせば、そのまま趨勢は決しかねない重要局面。だが試合の分水嶺に差し掛かったこの時、大坂は、決してパニックになっていなかったという。

「今の私には、どのような状況からでも勝てるという自信がある。以前の私なら、立て直すために何をどこから始めれば良いかわからなかったが、今は何が起きても大丈夫だと思える」

　それこそが、18歳だった頃と今の彼女の最大の違いであり、さらには、ネットを挟み対峙する18歳と、22歳の大坂を隔てる差でもあった。そしてそのような「自信」とは、「ツアーの中で踏んだ場数と経験の中からしか得られないものだ」とも彼女はいう。

　窮地に立たされたこの場面で、大坂は相手の強打に力で対抗するのではなく、まずは深く打ち返し、五分の状態に持ち込んでから再び冷静に組み立てた。５度のブレークの危機をしのぎ、最後は相手のミスでこのゲームをキープした時、大坂はコスチュクの落胆に、４年前の自分を見ただろうか。
  　続くゲームでコスチュクは、２本のダブルフォールトを連ね自ら危機を招き入れる。その機を逃すまいと、拳で太腿を叩き自らを奮い立たせた大坂は、フォアの強打で相手のラケットを弾きブレークに成功。かくしてつかんだ流れを手放すことなく、残りの３ゲームも連取した大坂が、一気にゴールまで走りきった。

　涙の逆転負けを喫した18歳の日、彼女は試合後のインタビュールームで、「経験の差を言い訳にしたくはない」と言った。

　それから、４年。重ねた年月を確かな成長の証とし、２度のグランドスラム優勝を誇る22歳は、大会２週目へと歩を進める。

文●内田暁

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