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海外テニス

「強くなって戻ってくる…」強盗に襲われ利き手に重症を負ったクビトワの復活物語【全仏テニス】

久見香奈恵

2020.10.10

2019年の全豪では大坂なおみに敗れ準優勝。敗戦に涙を見せたものの復活を喜んだ。(C)Getty Images

2019年の全豪では大坂なおみに敗れ準優勝。敗戦に涙を見せたものの復活を喜んだ。(C)Getty Images

 明るくコートに戻った彼女だが、術後しばらくはラケットを持つ手に感覚がなく、復帰戦の全仏でも自分がかつてのような選手になれるかどうか確信が持てていなかったと語っている。「もっと強くなる…」その言葉とは裏腹に、彼女はどれほどの不安と戦ったのだろうか。テニス選手にとってタッチショット、ドロップショットなど、手から伝わる繊細な感覚を再現するにも、神経を切断してからの復帰は簡単なものではなかったはずだ。

 しかし彼女は周囲が想像するよりも、はるかに早くこの経験を乗り越え、復帰の翌年2018年シーズンではツアー5勝を飾り、ランキングも4位まで取り戻した。事件から約2年後となる2019年全豪では準優勝を果たし、決勝で対戦した大坂から「ペトラは大変なことを乗り越えたよね」と優しい言葉が贈られた。「過去は振り返らない」と言い続けてきた彼女も、この時ばかりは涙を浮かべ自身が乗り越えてきた全ての過程を誇ったことだろう。
 
 完全に復活するとは言い難い左手の傷も、今は痛みなくプレーができていると笑顔で話す。現在も彼女はツアートップ選手として世界を転戦し、3年前に復帰を飾った場所である全仏でベスト4まで勝ち上がった。

 9日に行なわれた準決勝では世界6位のソフィア・ケニンと対戦し、4-6、5-7で敗れたものの、8年ぶりの準決勝進出に「この場所は私にとってラッキーな場所。これからも長くテニスの試合を楽しみたい」と前向きなコメントを残している。

 3年前に誓った「強くなって戻ってくる…」その意志は今も変わらず、彼女は来年またこの赤土で、さらに洗練された強さを見せてくれるだろう。

文●久見香奈恵
WTA125大会ダブルス優勝、全日本選手権女子ダブルス優勝、混合ダブルス準優勝といった戦績を挙げた元プロテニスプレーヤー。2017年に現役引退後はテニス普及活動や、イベント出演、WEB執筆等を行なっている。
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