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海外テニス

グラフのファンに背中を刺されPTSDを発症の後、全豪で優勝を遂げたモニカ・セレス【テニス復活物語】

久見香奈恵

2020.11.10

現在はテニスコートでのイベントに姿を現している。(C)Getty Images

現在はテニスコートでのイベントに姿を現している。(C)Getty Images

 犯人の身勝手な行為は、グラフや他選手とのスポーツから生まれる誠実なライバル関係を引き裂いたと言える。そして順調であった彼女の歴史的な成長を止めたと言っても過言でないだろう。

「私はテニスコートで育ち、最も安全だと感じた場所で、あの日すべてが奪われた。私のキャリアの流れを変えたし、様々な苦しみから泣いてばかりだった。しかし起こったことは変えられないし、現実を受け入れて次に向かい、幸せになろうと努力するしかなかった」

 事件から2年3か月後の1995年、彼女は再びコートに立つことができた。不安を心に忍ばせながらも自身を強く鼓舞したという。コート上では以前と同様に強烈なストロークでゲームを支配し、見事に復帰戦であるカナダオープンを優勝で飾った。翌月の全米オープンでは、グラフとの決勝で熱戦をファンに披露し準優勝すると、翌年の全豪では9度目のグランドスラム優勝を果たす。「またセレスの時代が戻ってくる」周囲はそう声にしたが、本人は戦いながら新しい世代の力も感じ取っていたという。その後はヒンギスやウィリアムズ姉妹の活躍もあり、グランドスラム優勝から遠ざかり、足の怪我などを理由に2008年に引退。復帰後もドイツでプレーすることは一度もなかった。
 
 キャリアの最盛期に178週連続でナンバーワンだったセレスに対して「あの恐ろしい刺殺事件がなければ、私たちは最も多くのグランドスラムのタイトルを持つモニカについて話していたことだろう。あの時、彼女にライバルはいなくて完全なスター選手だった。あの出来事が間違いなくテニスの歴史の流れを変えた」とナブラチロワは語っている。

 セレスは引退後、執筆に取り組み、当時のことを本で赤裸々に綴った。そしてペトラ・クビトワが強盗と格闘し負傷した事件を知ったときは、自身の経験を生かし、親身に寄り添ったという。

「あの苦しみを乗り越えて今の私がいる。私の父は、いつも人生は悲しみと幸福の組み合わせだと教えてくれた。私は以前よりずっと幸せよ」

 そう話す彼女は、現在もあらゆる感情が生まれたと言えるコートに立ち、レジェンドプレーヤーとしてテニス界を支えている。

文●久見香奈恵
WTA125大会ダブルス優勝、全日本選手権女子ダブルス優勝、混合ダブルス準優勝といった戦績を挙げた元プロテニスプレーヤー。2017年に現役引退後はテニス普及活動や、イベント出演、WEB執筆等を行なっている。

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