専門5誌オリジナル情報満載のスポーツ総合サイト

  • サッカーダイジェスト
  • WORLD SOCCER DIGEST
  • スマッシュ
  • DUNK SHOT
  • Slugger
国内テニス

理想のテニスより、泥臭い勝利を追い求める――所属先を変えてリスタートした守屋宏紀、30歳の勝負哲学<SMASH>

内田暁

2021.04.09

2012年の全米オープン、守屋は21歳にしてグランドスラム本戦の切符を勝ち取った。あの場所に戻るべく、新たなスポンサーの下で勝利を追求していく。写真:THE DIGEST写真部

2012年の全米オープン、守屋は21歳にしてグランドスラム本戦の切符を勝ち取った。あの場所に戻るべく、新たなスポンサーの下で勝利を追求していく。写真:THE DIGEST写真部

 それら苦労を重ね、欧州の厳しい環境にも揉まれながら、持ち味の早い展開にクレー仕込みの高い軌道の球も加えつつ、新たなプレーを模索し続けた。

 そうして30歳を迎えた今は、他選手のプレーを見て、「僕もあんなショットを打ってみたいな」「あの展開は自分も使えるかな?」と思う機会が増えたという。

 コロナ過の中断期からツアーが再開した時には、「こんなに無理してまで、世界を転戦することが果たして正しいのか?」と自問自答を繰り返しもした。それでも、最後に残る想いは常に、「うまくなりたい、強くなりたい、試合に勝ちたい」という無垢な向上心。その光を灯し続けるのは、あのニューヨークで味わった、高揚感と緊張感への情熱だ。

 その時の全米オープンで戦う守屋の姿は、現地で見る者たちに鮮烈な印象を刻みもした。安藤証券の安藤敏行社長も、その一人。テニスをよく知り、選手への支援も考えていた安藤氏は、守屋の早い展開力と繊細なタッチに魅力と可能性を覚える。その後、守屋がスペインに渡った時も、「日本人にとって最も選びづらい練習拠点を選択した勇気」を意気に感じた。

 今も、厳しい状況下でひたむきに夢を追う、彼の背を押したい……そう思った安藤氏は、かねてより目をかけていた青年と、この4月より所属契約を締結した。
 
「自分はヨーロッパに身を置き、他国の選手のスポンサー事情も聞く。コロナ過でも支援を頂き今後もテニスを続けていけるのは、本当にありがたいです」。あの時につながった縁に想いを馳せつつ、守屋は感慨深げに言った。

 年齢的には一つの大台を迎えたが、体力や執着心の衰えを感じることはない。むしろ最近は、「自分の理想のテニスを一旦脇に置き、泥臭くつかんだ勝利がうれしいんです」と、目じりを下げて笑みを広げた。

 テニス界全体の選手寿命が延びていることや、突如覚醒する遅咲きの苦労人がいることも、自分の可能性を信じる根拠となる。ちなみに、先の全豪オープンで予選からベスト4に大躍進した27歳のアスラン・カラチェフは、苦しかった2018年に、15,000ドル大会を共に回った戦友だ。

「出る大会で、一試合ずつ、一つひとつ勝っていきたい」と、守屋は言う。

 一歩一歩を連ね、人の縁をつむぎながら、かつて至ったあの場所の、そのさらに先を目指す。

取材・文●内田暁

【PHOTO】グランドスラムに挑む守屋宏紀ら、日本人プレーヤーたち
 

RECOMMENDオススメ情報

MAGAZINE雑誌最新号