専門5誌オリジナル情報満載のスポーツ総合サイト

  • サッカーダイジェスト
  • WORLD SOCCER DIGEST
  • スマッシュ
  • DUNK SHOT
  • Slugger
海外テニス

ウインブルドン準決勝敗退の青山/柴原ペアが明かす「一番の作戦ミス」。それでも成長と未来への希望を実感した2週間に<SMASH>

内田暁

2021.07.10

 だがそれは、二人が標榜してきたテニスとは、いささか趣きを異にする。

「スーウェイは色んなことをやってくるので、それに惑わされないように頑張ったんですが。もう少し逆をとったり、上手く誘って前で決めたかった」
柴原の声が、少しばかり沈む。

「プレッシャーをかけるためにも、やっぱり、もっと動いて相手に考えさせないといけなかった。そこが一番の作戦ミス」

 参謀役でもある青山は、「自分たちのやるべきテニス」を貫き切れなかったことを悔いた。

 青山と柴原が、スーウェイに脅威を覚えたのが老獪かつトリッキーな動きなら、メルテンスの武器は、サーブだ。

 日本ペアは、フォアハンドサイドが青山、バックサイドが柴原という陣形のため、ブレークポイントやゲームポイントなど、重要な局面では柴原にリターンが回ってくる。その時の相手のサーブコースを、柴原は読み切れなかった。

「思ったより、ワイドに良いサーブ打ってきた。センターをケアしすぎたかと思います」

 最終ゲームで得たブレークのチャンスでも、センターにサーブが来ると半ば確信していた柴原は、裏をかかれエースを決められた。

 メルテンスは、何度もトスをやり直し、ダブルフォルトをおかす心の揺らぎを見せながらも、ここぞという局面では高質のサーブを打ってくる。
 
 そして面した、相手の3度目のマッチポイント——。

 隠し持つカードを切るかのように、メルテンスは、センターにサーブを叩きこんできた。ボールは、一瞬反応の遅れた柴原のラケットの先をかすめて、白線の内側をえぐる。

「最後は、良いエース打たれた。相手がすごくうまかったです」

 1万人の歓声を浴びながらの試合を「すごく楽しかった」と振り返る柴原は、相手の戦略を素直に称えた。

 勝負の分岐点に焦点を当てれば、悔いと反省点が口をつく。それでも二人の表情に影がないのは、自分たちの成長の実感と同時に、未来への光も見えたからだろう。

「自分の良いところと、少し足りないところが明確になったので、そこに向けてもう一度しっかり取り組んでいきたい」

 青山の言う「少し足りないところ」の言葉には、目指す地点が近づきつつあるという矜持もにじむ。その手応えの要因は「ストローク」。メルテンスとの打ち合いにも一歩も引かず、フォアのクロスでウイナーを奪う場面もあった。
 
 一方の柴原がこの日に改めて示したのは、時速114マイル(約182キロ)を記録したサーブ力、そしてスマッシュやハイボレーなど“上の空間”への強さだ。

「今日が一番良かった」と自信を深めるサーブは、対戦したメルテンスが「とても良かったから重圧を覚えた」と明かすほどの武器となっている。

 試合が終わった時、大歓声に手を触り“聖地”の1番コートを去る二人の顔には、晴れやかな笑みが浮かんでいた。

 またこの場所に戻ってくる。その時は、センターコートで勝利をつかむ——そんな再会の約束に見えた。
 
文●内田暁

【PHOTO】大坂、錦織、青山/柴原ペアなど、グランドスラムで活躍する日本人選手を特集!

RECOMMENDオススメ情報

MAGAZINE雑誌最新号