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海外テニス

「ここから挽回するのは極めて難しい」愛するウインブルドンでフェデラーが感じた受け入れがたいギャップ<SMASH>

内田暁

2021.07.09

自分の身体が思うように動かず敗れたフェデラーは、今後について「チームと話し合う必要がある」と語る。(C)Getty Images

自分の身体が思うように動かず敗れたフェデラーは、今後について「チームと話し合う必要がある」と語る。(C)Getty Images

 大会序盤に彼を取り巻いていた不安や懐疑の気配は2週目に入ると薄れ、満席のセンターコートなど “聖地”に見慣れた景色が戻るにつれ、すべては過去に戻ったかのような空気が漂い始めていた。

「ここまで来たら、試合勘も取り戻し、以前のロジャー・フェデラーが見られるだろう」

 男子シングルス準々決勝の日を迎えたウインブルドンは、そんな高揚感と期待に満たされていた。
 
 その、どこか楽観的な空気が変化したのは、第1セット、ゲームカウント2-3のフェデラーのサービスゲーム。回り込んで放ったフェデラーのフォアの逆クロスが、大きくラインを割った時だった。

 多くのファンの記憶に焼き付く、フェデラーの……とりわけ、この芝の上での彼の姿との乖離が、大きかったのだろう。15,000人に迫る観客から漏れる声には、驚きと狼狽の色が混じった。

“かつての自分と現在との乖離”に誰より苦しんだのは、恐らくはほかならぬ、フェデラー本人だ。

「10年、15年、20年前にはごく簡単で普通にできたことが、今はそうはいかない。どうすべきかを思い出すので、精神的に余計な労力を費やしてしまう」

 後にフェデラーは、そのように明かしている。
 
 対して、フェデラーを「憧れの存在」と笑顔で明言するフベルト・フルカチュには、フェデラーがどう動き、どこに打ってくるかが読めているかのようだった。分析しようとせずとも、子どもの頃から見続けてきたアイドルのプレーは、自然とイメージできるのだろう。24歳のフルカチュは、フェデラーのフォアの逆クロスをバックのカウンターで叩き込み、軽やかなフットワークでドロップボレーにも対応した。

 イメージ通りに動かぬ自分の身体、そして自分の動きを読んでいるかのような相手のプレーに、フェデラーは重圧を覚えただろうか。

「コート上でやるべきことのアイディアはたくさんあるのに、それが望むようにできない」との焦りが、さらなるミスを誘発する。

 第2セットは先にブレークするも、ショットを次々とネットに掛けてブレークバックを許した時、試合の趨勢は大きく若いフルカチュに傾く。第2セットをタイブレークの末に失い、第3セットでもリードを許した時、フェデラーは「ここから挽回するのは極めて難しい」と、敗戦を半ば受け入れた。
 
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