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海外テニス

足踏みしていた“サラブレッド”が開眼! フリッツが「全てがうまく回り始めた」5か月前のきっかけ【シリーズ/ターニングポイント】

内田暁

2022.03.22

昨秋のインディアンウェルズで、突然フォアがかみ合うようになったとフリッツは明かす。今大会の決勝では、憧れのナダルをそのフォアで粉砕した。(C)Getty Images

昨秋のインディアンウェルズで、突然フォアがかみ合うようになったとフリッツは明かす。今大会の決勝では、憧れのナダルをそのフォアで粉砕した。(C)Getty Images

「昨年はつらい年だった。準決勝で負けることが多かった。ブレークスルーのためには……ランキングを上げるためには、大きな結果が必要だと感じていた。なのに、ここで勝てればという試合で負け続けた。1年を通じ、ずっともがいていたんだ」

 そのもがきのなかで迎えたのが、昨年のこの大会だった。

 インディアンエルズの会場は、生まれ育った自宅から車で2時間ほどの距離。それ以上に大きいのが、父親が、会場のすぐそばの“カレッジ・オブ・ザ・デザート”のコーチを務めることだ。

 父親は幼い我が子を連れ、「いつかお前も、この大会で優勝するんだぞ」と夢を語り聞かせたという。もっとも当時のテイラー少年が夢中になったのは、何より、スター選手たちのサインをもらうこと。

「正直、試合はほとんど見ないで、テニスバッグを持っている人たちを追っかけてばかりいた。まだ若い頃のアンディ・マリーを見た。信じられないことに、彼は僕のためにコートサイドに来てくれたんだ。芝生エリアでは、父が(バーナード)トミックを呼び寄せてくれたこともある。彼はすごく親切で、僕と、僕の友人にサインをくれた」

 それら数多の思い出が詰まる会場で、昨年10月に彼は、マテオ・ベレッティーニやアレクサンダー・ズベレフら、トップ10選手を次々破りベスト4へと躍進する。
 
「まったく予兆もないなかで、素晴らしい1週間が訪れた。この時から、全てがうまく回り始めた。あらゆるプレーが音を立ててかみ合った。とくにフォアハンドがね。以降の半年ほどは、どう考えても僕のキャリアの、ベストの期間だった。間違いなく、この大会がターニングポイントだと思う」

 彼が、この「ターニングポイント」について語ってくれたのは、今大会でベスト4進出を決めた時。翌日、準決勝で同期のアンドレイ・ルブレフを破ったフリッツは、「彼と決勝戦で戦うのは僕の夢」と憧憬を募らす、ラファエル・ナダルと対戦する。

 朝のウォームアップで足首のケガを悪化させ、棄権を勧める周囲を「どうしてもやりたい」と説き伏せ立った、決勝戦のセンターコート。文字通りの夢舞台で、半年前のこの場所で「かみ合い始めた」というフォアハンドを、彼は迷いなく打ち続けた。

 ターニングポイントと断定するには早すぎるかもと、やや言いよどんだ時から、3日後。彼は、インディアンウェルズのセンターコートでトロフィーを掲げ、自らの見立てが正しいことを証明した。

現地取材・文●内田暁

【PHOTO】フリッツのサービス、ハイスピードカメラによる『30コマの超分解写真』
 
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