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海外テニス

『2012年ウインブルドンからロンドン五輪までの4週間』が元王者アンディ・マリーのテニス人生を激変させた!【シリーズ/ターニングポイント】

内田暁

2022.03.20

今年の3月11日にツアー通算700勝を達成したアンディ・マリーだが、10年程前は最後の最後で勝ち切れない選手だった。(C)Getty Images

今年の3月11日にツアー通算700勝を達成したアンディ・マリーだが、10年程前は最後の最後で勝ち切れない選手だった。(C)Getty Images

 トップ選手には世界へと駆け上がる過程で転機となった試合や出来事があるものだ。このシリーズでは国内外のテニスツアーを取材して回るライターの内田暁氏が、選手自身から「ターニングポイント」を聞き出し、心に残る思いに迫る。今回はイギリスの元世界1位アンディ・マリーだ。

―――◆―――◆―――

「アンディは今日、オープン化以降18人目となる、シングルス通算700勝をあげた選手になりました」

 BNPパリバオープンの初戦。ダニエル太郎をフルセットの激闘の末に破った後の会見で、アンディ・マリーは、ATPメディア担当のグレッグ・シャルコから、そのような紹介を受けた。

 その言葉を聞き、懐かしそうな笑みを口の端に浮かべたマリーは、いつもの朴訥な口調で応じる。

「ちょうど600勝をあげたときも、僕はグレッグから、そのことを伝えられた。あれが2016年のシンシナティだったから、そこから100試合勝つまで、随分と時間が掛かったね」

 2016年は、奇しくもマリーが、キャリア最高の時を迎えたシーズンだった。

 ウインブルドンを制し、リオデジャネイロオリンピックでも、金メダルを獲得した年。そしてシーズン終盤では、なにかに取り憑かれたかのように連勝街道を疾走し、ついには世界1位まで走り切った。
 
 だが、その代償は小さくない。翌年以降、マリーは股関節の慢性的な痛みに悩まされ、ツアーから離れる時間が長くなる。2018年1月には股関節の手術を受け、その1年後には、人工股関節の大手術をも受け入れた。

「靴紐を結ぶものも痛い。次のウインブルドンには出たいが、それも可能かどうかわからない……」

 人工股関節手術に踏み切るか否かの迷いを抱えていた、2019年1月の全豪オープン開幕前。

 マリーは大粒の涙に言葉をつまらせながら、苦しい胸の内を必死につむいだ。このとき、再びコートを駆ける彼の姿を、予想できた人は少なかっただろう。

 それから、約半年後。

 最初はダブルスを中心にコートに戻ってきたマリーは、同年10月のアントワープ大会でツアー優勝。今季もシドニー国際で決勝戦まで勝ち上がり、700のマイルストーンに到る道を、歯を食いしばり歩んできた。
 
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