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海外テニス

空前の「シンネル・ブーム」サッカー大国イタリアがテニスに大熱狂! 全豪を制した22歳シナーが“国民的英雄”に「君は伝説だ」

片野道郎

2024.02.01

全豪OP準決勝でシナーがジョコビッチに勝利した内容を伝える1月27日のスポーツ紙『Gazzetta dello Sport』の1面(左)と、決勝に向けてイタリア国民に応援を呼び掛ける1月28日の1面(右)。(C) Gazzetta dello Sport

全豪OP準決勝でシナーがジョコビッチに勝利した内容を伝える1月27日のスポーツ紙『Gazzetta dello Sport』の1面(左)と、決勝に向けてイタリア国民に応援を呼び掛ける1月28日の1面(右)。(C) Gazzetta dello Sport

 今回の全豪オープンは、イタリアでは有料チャンネルの『Eurosport』が独占中継していたため、ジョコビッチを破って迎えたメドベージェフとの決勝も、国民的な関心事であったにもかかわらず、視聴できたのは『Eurosport』、あるいは同チャンネルがセットに組み込まれている『Sky Italia』『DAZN』の契約者などに限られていた。

 イタリアにおけるこれら有料スポーツチャンネルの契約者数は、全部でおよそ450万人前後。その中で28日の決勝の視聴者数は、ピーク時でなんと260万人に達した。これは有料チャンネルを通したテニスマッチの視聴者数では史上最高の数字だ。

 SNS上でも、シナーというワードが含まれたポスト数は、決勝が行われた1月28日だけで1140万にも上っている。そのうち85パーセントはFaceBookで、X(旧ツイッター)は2パーセントほど。イタリアでは今もFacebookが最もメジャーなSNSなのだ。

 日本でもそうであるようにイタリアにおいても、テニスのような個人競技に対する注目度や人気度は、世界のトップレベルで活躍するアスリートがいるかどうかによって大きく左右される。日本において、錦織圭の活躍がテニスの人気度を大きく高めたのはそのいい例だろう。

 イタリアにおいてこれまで、世界レベルでの傑出した活躍によってその競技に国民的な注目と人気をもたらした個人アスリートは、決して多くない。この30年間で言えば1990年代にアルペンスキー(回転、大回転)で圧倒的な強さを誇ったアルベルト・トンバ、自転車ロードレースで1998年にジーロ・ディタリアとツール・ド・フランスを続けて制覇したマルコ・パンターニ。

 また、90年代後半から15年以上に渡ってMOTO GPをはじめ二輪ロードレースの頂点に君臨したヴァレンティーノ・ロッシ、2000年代から2010年代前半にかけて200m、400m自由形で世界記録を出すなど女子水泳界のトップに留まり続けた北京五輪金メダリストのフェデリカ・ペッレグリーニくらいだろう。シナーは弱冠22歳にして早くも、そうした数少ない国民的アスリートの系譜に名を連ねることになったわけだ。
 
 シナーへの注目度と人気は、今回の全豪優勝で突然高まったわけではない。ATPランキングのトップ10に常駐するようになったここ2年は、その名前がマスコミで大きく取り上げられる回数が増えた。

 とりわけ23年11月、ATPファイナルズのグループステージでジョコビッチを初めて破り、決勝で再対決して惜しくも敗退しながら、続くデビスカップ決勝でイタリアを47年ぶりの優勝に導いた時には、イタリア国内のGoogle検索数、X(旧ツイッター)のハッシュタグ数で、スポーツ選手中トップに立った。

 今回の全豪優勝がもたらしたブームは、それから続いていた波が一気に最高潮に達した結果と言うことができるだろう。実際、大統領や首相から官邸に招待されて祝福を受けただけでなく、毎年3月に開かれるイタリア最大の音楽イベント「サンレモ音楽祭」のプロデューサーも、主催者である国営放送局『RAI』の番組内でシナーにゲスト参加を要請した。

 ゲスト参加に対しては歓迎する声がある一方で、本人は微妙な表情で言葉を濁した。心あるテニス・ファンからは、「競技に集中できる環境を奪えばパフォーマンスに影響を与える。すでにシーズンは始まっており、音楽祭への参加を求めるなど非常識だ」という批判の声が上がり、当のプロデューサーが釈明に追われるという一幕もあった。その後、シナーは「サンレモ音楽祭」へのゲスト出演を正式に断っている。

 シナーは、22歳にして世界のトップを窺おうとするスーパーなアスリートであるにもかかわらず、常に冷静かつ理性的であると同時に、スター気取りするところもなければ尖ったところもない。素朴で純粋、ある意味で真面目過ぎるパーソナリティーの持ち主でもあり、それが幅広い好意と共感を集める理由にもなっている。
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