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海外テニス

これまでのキャリアで途中棄権ゼロ。フェデラーの勝負に対する尊いまでの美学。「希望を捨てたことは、一度もない」

内田暁

2020.02.01

「勝つ可能性は3%くらい」と思って臨んだジョコビッチ戦。序盤はリードしたフェデラーだがストレートで敗れた。写真=山崎賢人(THE DIGEST写真部)

「勝つ可能性は3%くらい」と思って臨んだジョコビッチ戦。序盤はリードしたフェデラーだがストレートで敗れた。写真=山崎賢人(THE DIGEST写真部)

「そのような身体の状態で、この先、勝ち進むことができると思うか?」
 その問いには、彼は迷うことなく即答した。
「こういう試合や、ミルマン戦を勝ち上がれた後には、もちろん自分を信じられる。僕が信じるのをやめるのは、対戦相手と握手をして、真に試合が終わった時だけだ。それまでは、勝てると信じている。その前に希望を捨てたことは、一度もない」

 自らのその言葉に忠実に、彼は、ジョコビッチが待つ準決勝のコートに立った。「準々決勝を終えた夜にスキャンを受け、試合はできると思った。その後は無理をせず、翌日は完全に休養に当てた」というフェデラーは、実際に試合が始まった後も、「最後までできる」との自信を深めたという。

 試合では20のグランドスラムタイトルを持つ彼が、「失うものは何もない」のメンタリティで、ポイントを短く終えるべく攻めた。「可能な限り多くの球種を混ぜる」ことを心掛け、リターンでも大胆にウイナーを狙っていく。その立ち上がりは、フェデラーの状態を把握しかねていたジョコビッチの戸惑いも誘い、第1セットはフェデラーが4-1とリード。さらには続くゲームでも3連続ブレークポイントを手にし、第1セットは手負いのフェデラーが、一気に奪い去るかに見えた。
 
 だがこのゲームを凌がれると、続くサービスゲームを失い、かすかな勝機をも失う。「勝てるチャンスがないと思って、コートに立つことはない」と言い、それでも現実的に「勝つ可能性は3%くらいだと思っていた」というフェデラーは、あるがままに敗戦を受け入れた。

 剣ヶ峰まで追い詰められたフルセットの死闘を2度切り抜け、ケガを大きく悪化させることなく準決勝まで戦い抜いたこの全豪オープンを、フェデラーは「終わってみれば、満足できる大会だった」と総括した。

「これが、我々がメルボルン・パークであなたを見る最後の可能性はあるか?」
 そう問われたフェデラーは、「わからない。それは去年も同じだった。未来を知ることは難しい……特に僕の年齢ではね」と応じる。

 突如プレスルームに立ち込めた、郷愁と感傷の情。その空気を打ち消すように、彼は柔らかな表情で言った。 
 
「引退のプランはないよ。どうなるか見てみよう。もちろん、戻って来られると思っているけれどね」……と。

文●内田暁

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