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海外テニス

「夢は、見続ければ叶う」5歳の頃、父に手を引かれ訪れたフロリダから、新女王・ケニンのテニス人生が始まった【全豪オープンテニス】

内田暁

2020.02.02

多くの記者で埋め尽くされた会見場に姿を現したケニン。それは子どもの頃に想像していた光景であった。写真:山崎賢人(THE DIGEST写真部)

多くの記者で埋め尽くされた会見場に姿を現したケニン。それは子どもの頃に想像していた光景であった。写真:山崎賢人(THE DIGEST写真部)

 世界中から、テニスでの成功を夢見る者が集うフロリダは、天才少年・少女の群雄割拠の地だ。ケニンも10歳の頃から、同世代の少女たちと毎週のように顔を合わせ、凌ぎを削ってきたという。

 その同世代のライバルの中には、日本からの少女もいた。ハイチ系アメリカ人の父を持つその少女とは、勝ったり負けたりだったりとケニンは回想する。だが、日本からの少女――もったいぶるまでもなく、大坂なおみである――は、「彼女は私より年下で、私より強い子。ほとんどのタイトルをかっさらっていた」と認識していた。体格では最も小柄な部類だったケニンだが、脚力とショットの多彩さ、そして何より「メンタル・タフネス」は当時から際立っていたという。それらは今も変わらず、彼女のテニスの根幹を成す武器だ。
 
 5歳から見続けた夢に向け、メルボルンでの彼女は大会が進むにつれ加速する。準決勝では世界1位のアシュリー・バーティーと、多彩な技の競演を演じた末に、7-6、7-5で競り勝った。

 そして、初めて立つグランドスラム決勝の舞台でも、「この日を、思い描き続けてきた」という彼女に、硬さやプレッシャーは見られない。第1セットを失うも、第2セット以降は強打で勝るガルビネ・ムグルサをスライスやドロップショットで振り回し、最後はボレーやロブで仕留める。

 さらには、7歳の時に、米国のテレビ番組で「ロディックのサービスも返せる。スプリットステップを踏み、コンパクトにテイクバックを取って…」と言って話題になった得意のリターンで、ムグルサのサービスを鋭く打ち返した。そのリターンがプレッシャーとなり、ムグルサはダブルフォールトを重ねていく。

 試合の最後を決めたのも、ダブルフォールト――。それは単なる相手のミスではなく、彼女が勝ち取った栄光の瞬間だった。

「初めてだから、うまくできるかしら?」とはにかんだ表彰式のスピーチで、彼女は、コーチとして自身を導いてくれた父親に最大級の謝意を述べた。

 その約2時間後にプレスルームに現れた時は、部屋に入った瞬間、全ての椅子が記者で埋め尽くされた光景に驚きの表情を浮かべる。

「驚いたわ。だって会見室にこんなに人がいる光景は、見たことがなかったもの!」

 6歳の時、マイアミで「この席が人でいっぱいになるのよ!」と世界1位に示された未来の景色を、彼女はメルボルンで目の当たりにした。

「夢は、見続ければ叶うもの」とのメッセージを世界に発信した彼女の、その“夢の始まり”を知るには、どこまで時間を遡るべきだろう――?

 まだ生まれぬ子どもに希望の未来を与えるため、両親がニューヨークへと渡った、ソビエト連邦崩壊間近の1987年だろうか?

 あるいは、無人のプレスルームのプレーヤー席に座った6歳の時だろうか。

 いずれにしても、彼女が生きる“アメリカン・ドリーム”は、ここがゴールではなく、まだ夢半ばだ。

【女子シングルス決勝戦】
S・ケニン[14](アメリカ)4-6 6-2 6-2 G・ムグルサ(スペイン)

文・内田暁

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