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海外テニス

【雑草プロの世界転戦記14】上を目指すビジョンが明確化されたヨーロッパのジュニア育成環境<SMASH>

市川誠一郎

2023.07.26

2016年ウインブルドン・ジュニアでプレーする16歳のアルカラス。彼は同時期に一般のITFツアーにも挑戦し、初優勝を飾っている。(C)Getty Images ※左下写真は著者の市川誠一郎選手(本人提供)

2016年ウインブルドン・ジュニアでプレーする16歳のアルカラス。彼は同時期に一般のITFツアーにも挑戦し、初優勝を飾っている。(C)Getty Images ※左下写真は著者の市川誠一郎選手(本人提供)

 25歳でテニスを始め、32歳でプロになった市川誠一郎選手は、夢を追って海外のITF大会に挑み続ける。雑草プレーヤーが知られざる下部ツアーの実情を綴る転戦記。

―――◆―――◆―――

 ヨーロッパの練習環境について、これまでテニスアカデミーやテニスクラブを拠点にしたプロ活動をリポートしてきましたが、ここで少し視点を変え、ジュニアが置かれた環境について述べたいと思います。

 ドイツやフランス、スペインなどでは国内大会が非常に充実しており、各国のジュニアは幼少期から国境を越えてプレーする機会がたくさんあります。すでに12歳以下、14歳以下で多くの国際大会に出場するのです。

 彼らがプレーするのは「テニスヨーロッパ」という大会です。そしてテニスヨーロッパを勝てるようになってきたジュニアは、国際ツアーである「ITFジュニア」に出場し始めます。

 男子であれば10~14歳頃までテニスヨーロッパでプレーし、14歳頃からITFジュニアに出場するのが普通です。女子は結果が出ればどんどん次のステップに進むので、14歳でプロ大会に出場する選手もいます(もちろん男子でもいます)。

 ITFジュニアはグレードの低い順にJ30、J60、J100、J200、J300、J500と6つのレベルに分かれています。トップジュニアであればJ30、J60といった大会はすぐにクリアして、積極的にグレードの高い大会に移行していき、16歳に近づく頃からはプロのITFツアーとジュニア大会をミックスして出場します。

 通常ジュニアランキングで上位になると、ITFの下位ツアーの本戦に優先的に入れる仕組みがあるため、それを活用して17、18歳でITFに挑戦し、プロの世界ランキングを獲得。20歳くらいでより高いカテゴリーのITFツアー、さらにはチャレンジャー大会を目指す選手が多いです。
 
 世界トップ10を想定するようなプロジェクトに属する、本当に飛び抜けたトップ選手になると、16歳にはITFプロ大会ですぐに結果を出し、17歳でチャレンジャー中心、18歳でワールドツアー...というのが彼らが描く理想です。

 例えばジョコビッチは16歳になってすぐプロのフューチャーズ大会(男子ITFツアーの旧名称)で優勝し、17歳の誕生日にはチャレンジャーで優勝しています。アルカラスは14歳でフューチャーズに出場し始め、やはり16歳で初優勝、17歳でチャレンジャー優勝を飾っています。

 女子ははるかに早く、12、13歳でITFジュニアを勝つ選手もいるし、15歳でプロのITF大会に勝つ選手もいます。

 ヨーロッパでは身近にトップ選手がたくさんおり、ジュニアたちは彼らと同じITF大会でプレーしたり、同じ会場で練習を目の当たりにします。あるいは同じアカデミーの仲間がトップ選手と対戦したり、身近にいるコーチが元グランドスラム選手だったりします。そんなことが当たり前に起こるため、ジュニアのうちから具体的な指標をはっきり把握できるのです。

 もちろん、こうした早熟なエリート街道から外れても、遅咲きでトッププロに上り詰める選手もいますが、ジュニア期に各世代のトップにいられれば、恵まれた環境を得やすいのは確かです。そして勝負の世界では、そういう好待遇は期待されている時にしか与えられないため、ジュニア期のうちに勢いに乗って上り詰められるに越したことはないのです。

文●市川誠一郎

〈PROFILE〉
1984年生まれ。開成高、東大を卒業後ゼロからテニスを始め、32歳でプロ活動開始。36歳からヨーロッパに移り、各地を放浪しながらITFツアーに挑んでいる。2023年5月、初のATPポイントをダブルスで獲得。Amebaトップブロガー「夢中に生きる」配信中。ケイズハウス/HCA法律事務所所属。

【PHOTO】雑草プロの世界転戦記・ヨーロッパのテニスアカデミーでの日常風景
 

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