現地10月21日に行なわれたラグビーワールドカップ（W杯）準決勝、イングランド対南アフリカ戦。大会屈指の好カードの、あるワンシーンに疑惑の目が注がれ波紋が広がっている。

　試合は南アフリカが残り３分で逆転勝ちを収め、２大会連続で決勝進出。前回の日本大会でファイナルに進出したイングランドは、またしてもスプリングボクス（南アフリカ代表の愛称）の前に屈した。

　ところがノーサイド後、南アフリカのフッカーであるボンギ・ムボナンビがイングランドのトム・カリーに「白人のクソ野郎」と罵るような人種差別発言をした疑惑が浮上した。国際統括組織であるワールドラグビー（WR）は、イングランドラグビーフットボール協会からの公式な苦情を受けて、ムボナンビの「疑惑発言」の調査を開始した。

　この疑惑は南アフリカが１点差でイングランドを下した際、試合を裁定したベン・オキーフ主審のレフェリーマイクから聞こえたものだ。イングランドのカリーは前半30分過ぎ、主審にムボナンビから聞き捨てならない言葉を浴びせられたとして「もし彼らフッカーが私を白人のクソ野郎呼ばわりしたら、私はどうすればいい？」と尋ねると、主審は「何もしないでくれ」と回答。カリーはしばらく間を置いて「分かった」と引き下がった。ただ、この会話が具体的な出来事を指しているのかどうかは、まだ不明である。

　カリーは試合後、ミックスゾーンで報道陣にムボナンビから「言ってはいけない言葉」を浴びせられたことは認めているが、内容には言及せず。イングランド代表のスティーブ・ボースウィックHCは一連の疑惑についてはコメントを拒否している。

　調査に乗り出したWRは「差別的行為に関するすべての申し立てを極めて深刻に受け止めています」と声明を発表。現在、入手可能なすべての音声と映像の証拠を集めている段階であり、運営組織は懲戒処分の根拠があるかどうかを迅速に判断したいと考えているようだ。最終的にムボナンビに処分が下された場合、南アフリカは現地28日ニュージーランド代表との決勝戦で唯一のスペシャリストであるフッカーを欠くことになる。
  　差別的な言葉の使用はあったのか。カリーの母国メディアも、この騒動を熱心に追っているようだ。英国を代表する大手日刊紙『The Guardian』は試合翌日の月曜日、南アフリカのスクラムコーチであるダーン・ヒューマンを直撃したが、同コーチはこの疑惑の事件について、一切のコメントを拒否していることを報道。「ムボナンビが人種差別的な中傷をしたと考えているかどうかも明かさず、代わりにフッカーの性格を擁護するコメントを発表した」と次のように紹介している。

「ムボナンビは素晴らしい性格だ。彼は間違いなく、私たちのチームにいてほしい選手だ。彼について言えるのは、素晴らしい男だということだけ。とても穏やかな男で、よくしゃべる男さ」　

　チームメイトも32歳のフッカーを援護している。セカンドローのジャン・クラインは「正直なところ、それについてコメントすることはできないし、正当化することもできない」と前置きしたうえで「ムボナンビは立派な男だ。チームの中で彼を嫌いな選手はいないと思う」と謙虚な性格であることを強調。差別的な発言は考えにくいと見解を示した。

　同メディアによると、試合後のカリーは目に見えて怒っていたという。「ムボナンビに何か言われたのか？と聞かれると、カリーは『そうだね。ムボナンビと握手をしようとしたが、彼は私の手を押しのけたように見えた。今は話していない』とコメントした。これがいったい何を意味するだろうか」とムボナンビの行為を非難。フッカーの振る舞いを疑問視している。

　世界最高峰の戦いを前に水を差すような騒動の解決には、まだまだ時間がかかりそうだ。

構成●THE DIGEST編集部

【動画】ムボナンビ（背番号２）がトム・カリー（背番号７）と口論する一部始終

【音声】イングランド代表のカリーが“人種差別発言”を主審に訴える実音声

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