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過去にない豪華な彩りを添えたフィギュア全日本選手権。かつての王者・女王、五輪メダリストが“指導者”として帰還

湯川泰佑輝(THE DIGEST編集部)

2024.01.07

92回目となった全日本は、かつてトップスケーターとして活躍した選手が指導者として大舞台に戻ってきた。写真:金子拓弥(THE DIGEST写真部)

 遠くない未来を予感させるほど、熱いドラマが生まれた。

 昨年の12月21日から4日間、長野市・ビッグハットを舞台に開催されたフィギュアスケートの全日本選手権。過去にないハイレベルな争いとなった男子シングルは宇野昌磨が大会2連覇を飾り、日本男子歴代2位タイとなる通算6度目の優勝を達成した。一方の女子シングルは、パーフェクト演技を披露した坂本花織が盤石の強さを見せ、公言していた3連覇を収めた。

 大舞台に懸ける選手の汗と涙で筋書きのないドラマが展開されたなか、リンクサイドで見守るレジェンドスケーターたちの姿が大会に彩りを添えた。

 かつて日本のトップスケーターとして全日本で躍動した選手、オリンピックや世界選手権など、世界トップレベルで活躍した外国人スケーターらがリンクサイドで教え子の演技を見守り、キスアンドクライでは選手と一緒に感情を豊かに表現する。そんな顔ぶれが、実に豪華だった。
 
 例えば、女子の白岩優奈の演技を見守ったのは、1998年長野五輪代表で全日本6度優勝の本田武史。同氏は今大会、リンク以外でも小さくない話題を呼んだ。

 男子シングルのテレビ中継の解説を務めた本田氏は、最終グループに残った6人全員がほぼノーミスの演技を終えて熱いガッツポーズが続出したあと、「最終グループ全員を(世界選手権に)連れて行ってあげたいですよね」と労いの言葉を送り、その言葉がSNSでトレンド入りを果たすほど、選手に寄り添った解説が好評だった。

 昨シーズン世界選手権の代表に初選出されるなど、大きく飛躍した渡辺倫果。彼女のコーチを務めているのは現役時代、全日本に12度出場し、3度表彰台に上がった中庭健介だ。

 過去には四大陸選手権、グランプリシリーズなど海外の大会にも出場した実力者は2011年に引退しコーチに転向すると、21年より千葉県船橋市でスタートしたMFフィギュアスケートアカデミーのヘッドコーチに就任。渡辺や昨年の世界ジュニア選手権で銅メダルを獲得した中井亜美ら多くの有力選手を指導し、全日本にも多くの選手を送り出す名コーチとして名を馳せている。

 男性だけではない。かつての全日本女王も、指導者として大舞台に戻ってきた。2度のオリンピック(06、10年)に出場し、07・11年の世界選手権で金メダルを獲得した安藤美姫だ。同氏は現役時代、浅田真央や鈴木明子、中野友加里などと長年トップを争い、全日本の舞台では3度の優勝を果たしている。

 安藤氏は今大会、男子の田内誠悟と女子では鈴木なつ、大庭雅らのコーチとして演技を見守った。現役時代と変わらない弾ける笑顔で選手を送り出し、演技を終えた選手に労いの言葉をかけ、かつて自身が輝いた舞台を指導者としてかみしめている様子だった。
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