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フィギュア

世界王者の宇野昌磨ですら「相当緊張した」自己ベスト連発の男子シングル。好演技の相乗効果が生んだ”過去最高レベル”の激闘譜【フィギュア全日本選手権】

湯川泰佑輝(THE DIGEST編集部)

2023.12.28

全日本で表彰台を確保した左から鍵山、宇野、山本。写真:金子拓弥(THE DIGEST写真部)

全日本で表彰台を確保した左から鍵山、宇野、山本。写真:金子拓弥(THE DIGEST写真部)

「僕じゃなかったら、相当緊張していたと思います。皆さん、その前の選手たちも本当に素晴らしい演技ばかりでした」

 冒頭の言葉は、通算6度目の全日本優勝を収めた宇野昌磨だ。昨シーズン、日本男子初の世界選手権2連覇を飾った絶対王者ですら脅威に感じるほど、超ハイレベルだった今年のフィギュアスケート全日本選手権の男子シングル。最終グループを滑り終えた選手たちが、その裏で漏らした言葉とは――。
【PHOTO】宇野昌磨、鍵山優真、山本草太など…激戦の全日本フィギュア男子出場選手を厳選ショットで紹介!

 12月21日から長野市・ビッグハットを舞台に4日間の激闘が行なわれた全日本選手権。なかでも最大のハイライトは、大会3日目(23日)に開催された男子フリースケーティングだった。

 激戦の予兆は、第3グループから起きていた。全体17番目に滑走したシニア1年目の吉岡希がフリーの自己ベストを約20点も大幅に更新。トータルでも15点以上更新する会心の演技でトップに浮上した。だがそのあと、世界女王の坂本花織と同じ中野園子氏に指導を仰ぐ壷井達也がフリー、合計で大幅にパーソナルベストを更新。首位を奪取した。

 会場の興奮が冷めやらぬなか、残り6名を残した最終グループの直前公式練習がスタート。今年度の王者は、はたして誰になるのか。宇野が本田武史、羽生結弦に並ぶ男子歴代2位タイの優勝を飾るのか、それとも新たな王者が誕生するのか。否が応でも緊張感は高まった。

 先陣を切ったのは友野一希。昨年、悲願の表彰台(3位)を掴んだ25歳は2つ目の4回転ジャンプで出来栄え点(GOE)がマイナスになるも、それ以外のジャンプはすべて成功。終盤のステップでは観衆を大いに沸かせ、今季ベストな演技を披露した。

 昨年の同大会よりも20点近い高い得点で自己ベストを更新した友野。2年連続表彰台を確実に手にした…かに思えたが、ここから歴史に残る表彰台争いが幕を開けるとは、誰も予想できなかった。
 
 続く19歳の佐藤駿は、冒頭で難度の高い4回転ルッツに成功。GOEは「3.78点」と高い加点をもらい勢いを付けた。そのあと予定していた4回転ジャンプはすべて着氷。公式練習で何度も苦戦していた自身最大の武器を土壇場で決め、フィニッシュ後はスタンドで声援を送っていた明治大の仲間にグータッチで応えた。

 ミックスゾーンに戻ると開口一番、「スケートをやっていて、一番楽しかった」と満足した表情で語り、「ルッツを成功できて、出来栄え点も高い評価を頂けて嬉しく思っています。すごい純粋に全日本選手権を楽しむことができました」と答えた佐藤。無論、今季ベストだったグランプリシリーズ・フィンランド大会の得点をフリー、合計をともに超えた。

 首位に踊り出た佐藤、そして12月のグランプリファイナルで一緒に戦った鍵山優真とジュニア時代から切磋琢磨し続けてきた三浦佳生もライバルの演技に刺激を受けた。

 ショートでは体調不良のなか魂の演技を披露したが、終盤の足替えシットスピンがまさかの「0点」にジャッジされ、演技後には「点数に納得いかない」と異論を唱えていた。18歳は、その悔しさをぶつけるかのようにフリーでは『進撃の巨人』を熱演。観衆、そして因縁のジャッジをも十分に唸らせた。

 迫力ある滑りで4回転ジャンプを3本着氷させた三浦。特に体力が落ちる後半の4回転+3回転の連続トウループを降りた時には気迫さえ感じ、ジャッジの目の前まで迫るフィニッシュは、まさに巨人を駆逐する調査兵団の決死な姿そのもの。演技後は渾身のガッツポーズが飛び出し、パーソナルベストを確認すると支えてくれた両脇のコーチらと涙の抱擁を交わした。

 ショートとは違い、充実した表情で戻ってきた18歳は「内容としては満足しているし、笑顔で大会を終えられて良かった。満足のいく点数。すごくレベルの高い試合だった」と話すが、「でも、表彰台に上がれなかったのは悔しい。いい演技が続いた中、自分も堂々と滑れた」と負けず嫌いな一面も見せたが、周りのスケーターの完璧な演技が自身のパフォーマンスをより引き上げてくれたことを強調し、晴れやかな顔で会場を去った。
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