競馬

【名馬列伝】「牝馬の枠に収まらない」デビュー前のジェンティルドンナに抱いた石坂調教師の直感。牝馬三冠は偉大な貴婦人物語の序章に過ぎない<前編>

三好達彦

2024.09.03

牝馬三冠を達成したジェンティルドンナ(手前)。ヴィルシーナ(奥)と牝馬クラシック戦線で名勝負を繰り広げた。写真:産経新聞社

 調教師の石坂正は、デビュー前の2歳牝馬が稽古のたびに見せるパワフルでしなやかな走りを見ながら、「この馬は牝馬の枠に収まり切らない存在になる」と感じていたという。その馬こそ、牝馬三冠に加え、牡牝混合GⅠを4勝することになる偉大な"貴婦人"ジェンティルドンナである。

 父はもはや説明の必要もない最高クラスの名馬にして大種牡馬ディープインパクト、母は現役時代に英GⅠのチェバリーパークステークスを制した名牝ドナブリーニ(父    Bertolini)という、日本トップクラスの良血馬として生を受けたジェンティルドンナ。全姉ドナウブルーは京都牝馬ステークス、関屋記念とGⅢを2つ制しており、血統的に大きな期待をかけられた。そして、姉も管理した栗東トレーニング・センターの石坂正厩舎へと彼女は預託された。
 
 2011年11月。2歳離れした豪快な調教が評判になっていたジェンティルドンナは京都の新馬戦(1600m)でデビューするが、不良馬場で追い込み切れず2着に敗れる不覚を取る。しかし、オッズ1.6倍の単勝1番人気に推されて出走した12月の未勝利戦(阪神・芝1600m)では4番手から素晴らしい瞬発力で抜け出すと、2着に3馬身半差を付ける圧巻のレース内容で白星を飾った。

 3歳を迎えた2012年の初戦、石坂はギャンブルに出る。牡牝混合のマイル重賞、シンザン記念(GⅢ、京都・芝1600m)をターゲットに選んだのだ。強い勝ち方をしたとはいえ、ジェンティルドンナはまだ1勝馬。クラシック戦線に乗るには賞金の上積みか、トライアルレースでの優先出走権を確保する必要がある。そうした状況のなか、石坂は500万下(1勝クラス)をパスした格上挑戦であり、牡馬とぶつかるシンザン記念を選んだのだ。それは厳しい条件ではあっても、ジェンティルドンナの能力をもってすれば、悪くとも2着以内に入って賞金を積み上げられるとの認識をもって下した決断だった。
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牝馬クラシック戦線で激闘を重ねる”ライバル”との出会い